【ゲーム関連株日記】「微課金ユーザーがCo-op(協力プレイ)で重課金ユーザーを打ち倒した」アメリカでの話【その16】

 前回「株式投資は札束で殴り合うソシャゲ」であることに気付いた話を書いたが、海の向こうアメリカでは「微課金ユーザーがCo-op(協力プレイ)で重課金ユーザーを打ち倒した」というような出来事が起きていた。

【ゲーム関連株日記】放置系のソシャゲかと思っていたのだが、どうやら札束で殴り合う系のソシャゲだったようだ【その15】

空売り機関 vs. 個人投資家の集合体

 これまで空売りで儲ける機関投資家に対し、個人投資家が出来る術はないと考えられていた。しかし、2021年初頭に「大人数の個人投資家が協力して機関の空売り以上の買い付けをすることで、株価を急騰させ機関投資家に大損をさせる」ことに成功した。

舞台

 戦いはGameStop株を介して行われた。GameStopは米国の大手ゲームソフト小売販売店で、新品及び中古のゲーム機本体・ソフト・関連商品、スマートフォンなどを取り扱っている。日本でいう所のGEOのような店だ。ただ、今回、GameStopがどういう店なのかは全く関係ない。

空売りとは

 株は本来、安く買って、高く売ることで儲けを出すものである。株式投資に限らず、商売の基本というのはそういうものだろうと思う。安く仕入れて、高く売る。その差額が儲けとなる。株式投資が商売と違うところは、その逆が出来るところだ。つまり、高く売って、安く買うことで儲けを出すことも出来る。「持ってもいない株式を買う前に売る」というようなことが出来てしまうのだ。思わず、高村光太郎の名詩『人に』が頭に浮かぶ。

花よりさきに実のなるやうな
種子よりさきに芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理窟に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい

買いより先に売りが来る理屈

「買うよりさきに手放すやうな そんな理屈に合わない不自然」が出来てしまうのが株式投資だ。

 理屈としてはこうなる。まず、証券会社に保証金を預けて株式を借りる。その借りた株式を売る。そして、安くなるのを待って、買い戻して返す。その差額が儲けになる、というわけだ。それが俗にいう「空売り」だ。

「借りたものを売りとばす。安くなったら買い戻して返す」

 そうなると「理屈に合わない不自然」ではないということはわかるものの、「道理に背いた行い」ではないかと思われる。ただ、実際の手順として、空売りの注文をいれ、それが成立すれば「その株式を売った」ということになるだけのことであり、売ったお金は証券会社に株式を借りた担保として預けられている状態であり、手元に現金が来るわけでもないので、株式を借りているという感覚はない。

空売りのメリット

 個人のメリットとしては、株価が下がっている最中にでも儲けられるというところだろう。
 手持ちの株式の価格が下がってきた時に、その株式を手元に残したまま、一方で空売りをしておけば、下がって損する分と空売りで儲ける分とで相殺できるので、暴落のリスクを回避することもできる。

 相場全体のメリットとしては、株価が上がりすぎてバブル状態になっているとき、放っておけばそのままどんどんバブルは膨らみ最終的に弾けて多くの人が大損してしまうことになるが、バブルがある程度膨らんだところで「上がりすぎているので、すぐに下がり始めるに違いない」と空売りをする人が増えていけば、大きなバブルとなって弾けてしまうことを防ぐことができる。
 沸騰して吹きこぼれそうになっているお鍋に差し水をして一旦落ち着かせるような効果だ。

 また、売った株式はいずれ買い戻さないといけないので、その後、ある程度下がったら売った人たちの買いが入って、今度は下がりすぎが防がれるというメリットもある。

 それ以外にはこんなメリットもある。株価が上がるか下がるか判断がつかないようなときに、「買う」選択肢しかないと、状態が膠着してしまう。しかし、そこに「空売り」の選択肢があることで、新規の顧客が「売る」ことから参入することが出来る。
 株価を動かすための呼び水になるのだ。

 差し水になったり、呼び水になったり、さすが「株価は水物」と言われるだけのことはある。「おあとがよろしいようで……」とはならない。話はまだまだ続く。

空売りのデメリット

 個人のデメリットとしては、やはり、損失が青天井なことだ。

 売った株式はいずれ買い戻さないといけない。しかも、返すまでの期間は最大6か月と決まっている。永遠に借りっぱなしでいいなら、下がるまで持ち続ければよいが、期限があることで、売った時より株価が上がっていても買わなければいけないときがくる。それがいくらになっていたとしてもだ。

「買って売る」なら、株価がゼロになったときが最大の損失で、それよりもマイナスになることはない。ところが「売って買う」だと、株価に上限がないために、損失も上限なく無限大の可能性を持つ。

 極端な話をすると、100円で買った株式が0円になれば、100円の損失だ。買いから入る場合は、そこで話は終わる。一方、売りから入る場合。100円で売った株式が1億円になってしまっていたとしよう。その株式を買い戻して返そうと思ったら、1億円を払わないといけない。借りた株式を売って100円を手に入れ、その株式を返すために1億円を支払う。その差額が損失になるのだ。

 そんなことにならないための救済措置は色々あるが、基本的にはそういうリスクがあるものなのだ。

 それに加えて、株式を貸してくれた証券会社に貸株料や管理料を払わなくてはならない。長く借りていればそれだけお金も沢山かかる。

 相場全体のデメリットとしては、「上がりすぎを防ぐ」というメリットと裏表の話になるが、多額の保証金が用意できるなら「株価を意図的に上げないようにすることが出来る位に売り続けることができる」ということだ。このデメリットを利用して儲ける機関(空売りをする部門を持つ証券会社や銀行)を空売り機関と呼ぶ。

 GameStop株の急騰は「空売り機関に怒った個人投資家たちが協力して戦いを挑んだ」という構図になる。

空売り機関のやり口

 業績もよく、不祥事も起こしそうにない会社なのに、なぜか株価が低い位置で上がり下がりを繰り返し、本来これくらいはあるだろうと思われる様な株価まで上がってこないことがある。そんな時は「そんな理窟に合はない不自然をどうかしないでゐて下さい」と言いたくなるが、そこに空売り機関が絡んでいることがあるのだ。

 決算が発表され、業績が良ければ、「これなら株価が上がるだろう!」と個人投資家たちから沢山の買いが入る。そうなると株価は上がる。それが過剰になってきて、上がりすぎた時に入る適度な空売りなら、バブルを事前に防ぐための本来の効果だ。しかし、適度を超えて適正な価格より下がるような空売りが続くと、「株価が上がる!」と思って買った個人投資家たちは、期待外れだと、買った株を売り始める。

 そうなると、株価はどんどん下がっていく。ある程度のところが来れば、機関は空売りした株式を買い始める。その段階で空売り機関は儲けを得る。それと同時にその買付が入ることで株価は上がっていく。そうすればまた「やっぱり今の株価は安すぎて、本来はもっと高いところだよね」と個人投資家が集まってきて買い始める。そうしたら、また株価が上がって行く。するとまた、振出しに戻って、機関が空売りをするというわけだ。

 空売り機関は「株価がどの程度まで下がれば、個人投資家が損切りをし始めるか、そこからさらに下がった時にまた買い始めるか」の予測データも持っていて、最大限の利益が得られるように売り買いをしている。

 株式投資は誰かが儲けている時、誰かが損失を出している。この場合であれば空売り機関が効率的に儲けている一方で、「株価が上がると思って買ったのに下がってしまった」と思い、損切りをして損失を出した個人投資家が沢山いることになる。

 こんな株価操作まがいのことが出来るのは、多額の保証金を用意できるからだ。個人がいくら空売りした所で、株価の上昇を抑える程の空売りは出来ない。そこまでの保証金は通常用意出来ないからだ。それが前回「株式投資は札束で殴り合うソシャゲ」じゃないか、と思った理由の一つでもあった。

 本格的な株価操作はどの国であっても法律で禁止されており、破れば罰せられる。しかし、上記のような場合、価格操作であるという証明を行うことはそれほど簡単な話ではない。

 もともと、価格操作を簡単にさせないように細かなルールが決められている。空売り機関も当然そんなことはわかっているため、それを逸脱する様な露骨なことはしない。価格操作的ではあっても、価格操作とはいえないのだ。実際は株価を上げないために空売りをしているのだとしても、「下がると思ったから空売りしたんです。実際、下がったでしょ?」と言われたら、それ以上、何も追及は出来ないだろう。
「彼女は僕のことが嫌いなんだ、嫌いなんだ、嫌いなんだ」とネガティブなことばかりを言い続けていたら、実際に嫌われていることがはっきりして「ほら、やっぱり、彼女は僕のことが嫌いなんだ」となってしまうという状況によく似ている。似ていると思っただけで別段意味はない。

 なんにしろ「どちらが原因で、どちらが結果なのかをはっきり言うことは難しい」ということだ。

 そういった一連の流れがあちこちで見られるため、「空売り機関のせいで思う様に儲けられなかった」「応援している企業の株がなかなか上がらない」「空売り機関を一度痛い目に合わせてやりたい」と考える個人投資家が多く、今回のGameStopの株価急騰は起こったのだ。

GameStopの急騰前夜

 上述の通りGameStopは実店舗を持つ大手のゲームソフト販売店だ。日本でもそうだが、米国においてもスマホゲームの台頭や、コンシューマ機のダウンロードソフトの割合の増加で、ゲームショップの経営規模は年々小さくなっている。

「GameStopがここから持ち直すことはないだろうから、株価は下がる一方だろう」と、多くの人が考える。そうなると、空売り機関も当然のように空売りを大量にいれるようになる。

 しかし、GameStopもただ滅びていくだけではなかった。2020年8月にペットフード販売大手会社Chewyの創業者の一人が大量に株を取得し始めた。その人物は大株主となり、2021年1月に元同僚二人を連れて経営に参加する。タイミング的に、Xbox Series Xや、PS5の発売に目を付けたのではないかと思う。

 実際の株価の変化はこんな感じになる。

  ずっと10ドル未満で低迷していた株価が2020年8月ごろより少しずつ上向いてきたのだ。

 当然、株価が上がってくると、下がると予想して空売りをしていた投資家たちは面白くない。買った価格よりも、高値で買い戻さなくといけなくなるからだ。もしこのまま上がっていくのを黙って見ていれば、大きな損失を出すことになるだろう。
 そこで取れる選択肢は二つ。上がる前に買い戻して損失を最小限にするか、さらに空売りをして株価が上がらないように押さえつけるかだ。

 そして、後者を選択した投資家たちによって、大量の空売りが発生した。その中には、メルビン・キャピタル(Melvin Capital)やシトロン・リサーチ(Citron Research)などの機関による空売りも含まれていた。

 こうなると今度は「経営陣に有能な人物が入って、これから株価が上がるだろう」と思って、株式を買った投資家にとって面白くない話となる。

「また、空売り機関の仕業か!」となったことだろう。

 株価が上がろうとすればするほど、機関は空売りを積み重ねる。結果として「発行済み株式数6,975万株に対し、空売り株数が7,100万株に到達。インサイダーの持ち株、大手機関投資家の持ち株は売りに出されないので、それを引いたら発行済みの2,000万~3,000万株に対し空売り7,100万株」というとんでもない状態になった。

「借りた株を売る」のが空売りなら、借りる株が無いと売れないはずであり、発行済みの株式よりも、空売りされた株式の数の方が多いというのは極めて不自然ではないかと感じる。しかし、これはネイキッドショートセリングという手法が使われたためにこんなことになってしまったのだ。

ネイキッドショートセリングとは

 ネイキッドショートセリングというのは、「株を借りなくても、借りたことにして売る」というものだ。保証金さえ用意すればそんなことまでできてしまうのだ。「買うより先に売りに出す」というのだけでも「なんなんだそれは」という思いであるのに、「ついには『借りずに売る』なんてことまでしはじめるのか」という気持ちになる。証券会社が「『空売り機関さんが売った』ということで、帳簿にはそうつけときますんで、貸株料とか保管料とか諸々の手数料を払ってくださいね」と言いながら特別扱いするようなイメージだろうか。

実際に動いている株が少ないことに気付いた人々

 空売りが異常に増えた状況を見て、Reddit(日本の5ちゃんねるのような不特定多数の人が集まる掲示板)の投資フォーラム「r/WallStreetBets」に集まる個人投資家の一人が「もしこの状態で俺たちが株を買いしめて、売らずに手元に置いておいたら、他の誰からも買えなくなって、どうしても買いたければ、俺たちからそれ相応の金を出して買うしかなるはずだ。そうすれば、株価は急騰する。みんなで買い占めるんだ!」と言い出した。

 それが2021年1月26日に投稿されたShort Squeeze Explained for Dummies(サルでもわかるショートスクイーズ)だ。Redditの利用者たちはその話に乗り、GameStop株が買われることとなった。

ショートスクイーズとは

 その投稿Short Squeeze Explained for Dummies(サルでもわかるショートスクイーズ)は「ショートスクイーズをみんなで起こそう」という趣旨で、ショートスクイーズとは何かが簡単に書かれていた。

Short Squeeze Explained for Dummies
  • 今、バナナが10ドルで売り買いされているとしよう。
    🍌🍌🍌🍌🍌/💲🔟
  • お店には5本のバナナを持ったお猿が一匹。
    🦍🍌🍌🍌🍌🍌
  • そこへ蛇がやってくる。蛇は猿からバナナを借りた。そして、そのバナナを猿の代わりに売ってしまう(それが空売り)。蛇はこう考えていた。「バナナが安くなってから買い戻して、それを猿に返せば、差額が私の儲けになる」
    🐍💭📉🍌🍌🍌🍌🍌
  • 猿たちはこの愚かな蛇どものやっていることに気付いてしまった。猿たちは決めた。「蛇どもが買い戻す前に、売ってるバナナを全部買い占めてやろう。俺たちにバナナを返すために、俺たちからバナナを買うしかなくなるまで」
    🦍🦍🦍🍌🍌🍌🍌🍌🍌🍌🍌🤣😂
  • もし、猿たちが買い占める力を強いままに維持できれば、バナナの価格は跳ねあがるだろう。
    🦍💎✋🚀🚀🚀📈🚀🚀🚀

 説明文では、個人投資家と空売り機関を猿と蛇で例えているが、空売り機関を示す蛇に「stupid」とあえてつけているところに空売り機関への怒りが垣間見える。

Redditの住民たちが買った結果

 結果としてそれは成功し、株価の急騰を招いた。投稿のあった2021年1月26日の終値は前日の2倍となっている。翌日になっても、まだ上がっている。きっかけはRedditの住民でも一度上がり始めると、イナゴ投資家たちが「これは儲かりそう!」と群がって来るし、空売りをしていた投資家たちが損切りのために買戻しをし始めるしで、どんどん値が上がる結果となった。狙い通りのショートスクイーズだ。

 最終的に、愚かな蛇たちはバナナを買い占めた猿たちから高値で買い戻さなくてはならなくなる。「シトロンリサーチの創設者アンドリュー・レフト氏は、「100%の損失で買い戻した」とYouTubeで明らかにした。」「メルビン・キャピタルは37億5000万ドル(約3913億円)を失った。」という結果になった。

「微課金ユーザーがCo-opで重課金ユーザーを打ち倒した」ものの……

 一応、一部の空売り機関がダメージを受けたものの、逆に儲けた機関もあるし、損をした個人投資家もいる。単純に「桃太郎は鬼を退治しました。めでたし、めでたし」とはいかない。Redditで買占めを先導した投稿者が、株価操作にあたるんじゃないかとか、あまりの株価の急騰に、米国の新興証券会社ロビンフッド社がGameStop株の売買を制限してしまい、それは空売り機関に利する行為じゃないかとか、色んな方向に問題が提起されながらも誰もはっきりとしたことが言えず、株式投資のシステムの曖昧さが露呈した。

最後に

 空売り機関に個人投資家たちが一矢報いることが出来たという点は爽快だが、株式投資の様々な問題点が浮かび上がってきた。この一件から、空売り機関が一方的に儲けているような現状を打破する何かにつながってくれればと思う。

 きちんとした詳細が知りたい人用にこの記事の最後にリンクをはっておくのでそれも参照してほしい。

参考サイト

 今回は珍しく色々と調べながら書いたので、参考にしたサイトをまとめておくことにする。1つのサイトだけだと情報が偏っている可能性があるため、一つの事象につき、2つ以上のサイトにリンクしておく。

空売りについて

参考 「空売り」とは? 仕組みやメリット、リスクを解説SMBC日興証券

参考 「空売り」で売買技術の向上を目指そうトウシル 楽天証券の投資情報メディア

空売りの社会的意義について

参考 社会の役にたっている空売りQuickMoneyWorld

参考 「空売り」の社会的意義を考えるQUICK Money World

空売り機関の空売り情報

参考 空売り残高情報を検索karauri.net

参考 空売り残高情報IR Bank

GameStop株の急騰について

参考 GameStop株急騰はなぜ起こった? 3分解説&扇動した赤ハチマキ男の正体ギズモード・ジャパン

参考 ゲームストップ株相場の狂気!個人投資家がバブル相場に注ぎ込んでいいお金は、失っていいお金だけであるトウシル

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