【Will -素晴らしき世界-】群像劇のノベルゲーム。

げいむすきお

初めてこのゲームの説明や紹介動画を見たとき、真っ先に浮かんだのは『428』や『街』でした。群像劇、ザッピング、ノベルゲームとくれば、無理からぬことでしょう。STEAM版、Switch版、PS4版とあります。ちなみに中国のインディーズ作品です。

どんなゲーム?

 それぞれ別々の場所で生活している主人公たちの絡み合うストーリーをザッピングしつつ、彼・彼女らの運命を操ってハッピーエンドへと導くのがこのゲームの主題です。彼・彼女らから送られてくる手紙を読んで、その一部を入れ替えるという方法で、主人公たちの運命を操るのがこのゲームの一番の特徴です。

 ある主人公の行動が、時に直接的に、時にまわりまわって、別の主人公のストーリーに影響を与えます。428や街が好きな人だったら、同様に楽しめると思います。
 主人公の数は街が8人428が7人なのに対し、Willは12人(+α)と少し多めです。また、後述しますが、428や街のように「主人公として」「選択肢を選ぶ」のではなく、「第三者として」「物語を変化させる」という点は428とは違う大きな特徴でしょう。

 似ているだけに428と比較してレビューしてる人はいないかなと思い、検索してみるとでディレクターを務めた麻野一哉氏、428で総監督を務めたイシイジロウ氏、そしてこのゲームを作った王妙一(ワン・ミャオイー)氏の対談がヒットしました。

参考 『街 〜運命の交差点〜』×『428 〜封鎖された渋谷で〜』×『WILL -素晴らしき世界-』開発者たちが語り合う群像ゲームの作り方(前編) | AUTOMATONAUTOMATON

どういうシステム?

 プレイヤーは神様です。そして、神様らしく特殊な能力を持っています。それは自らのもとへ送られてくる助けを求める祈りの手紙を、特殊なペンを使って、テキストを入れ替えることで、現実を変えてしまう能力です。次から次へと祈りの手紙が送られてきますので、手紙のテキストを入れ替えて、主人公たちが直面している困難を解消してあげましょう。「祈りの手紙」は各キャラクターが実際に書いたものではなく、あくまでも神様への助けを求める気持ちが手紙という形で届いてくるという設定です。

 他のアドベンチャーゲームの様に『物語の主人公になって、運命を切り開くための選択肢を選んでいく』わけではなく『第三者である神様の立場から物語の主人公たちの運命を救っていく』という形になります。

 神様は、物語の主人公たちからすれば、運命を操る高次元の存在ですが、神様は神様で、主人公たちとは別の物語があります。神様は少女の姿をしており、今いる場所も自分の名前すらも覚えていない記憶喪失で、相棒の喋る犬(みたいな神様)がいます。

 この神様の物語が、12人+αの主人公の物語のすきまを埋める存在となり、中だるみを解消して、ゲームへの興味を引き続ける工夫として、非常に上手く機能しています。

テキストを入れ替えて現実を変える?

「テキストを入れ替えて現実を変える」というのがどういうことか、例を挙げて説明してみたいと思います。オリジナルストーリーなのでネタバレはないのでご安心ください。あと完全にフィクションなので、実在の人物や団体などとは関係ありません。

 昼間は人の出入りでざわついているオフィスだが、夜の11時ともなると静まり返っている。
 強い雨風が窓や建物をたたく音だけがやたらと響く。ネットの天気予報によると、今季最大といわれるこの台風はあと2時間程度、この付近に居座るようだ。
 
 この雨風の中帰るのも危ないし、ちょうどよかったかもな。
 
 そうでも思わないとやってられない。「明日のプレゼンの資料を作っておくように」と、突然上司に言われたのがちょうど帰り支度を始めていた18時ごろ。パワハラまがいかパワハラそのものかという程度のかなり威圧的な態度だった。新入りの私に断るという選択肢はなく、残業して作ることになった。本当は風雨が本格的に強くなる前に帰りたかったんだけど。
 さっさと終わらせて帰ればいいようなものだけど、今一つ集中できない。
 
 意識せずスマホに手が伸びる。SNSを見て回り、レスを付けたり、DMに返信したりしているうちに気付くと1時間たっていた。後悔で息がとまりそうになる。遊び過ぎた。私は座り直してノートパソコンに向かった。いつの間にかバッテリーが10%を切っていたので、充電用のコードをつなげる。
 その時、閃光が走り、オフィスのライトが消えた。少し遅れて雷鳴が聞こえてくる。
 
 停電だ。
 
 真っ暗なオフィスの中、ノートパソコンのディスプレイだけが周囲をほんのりと照らしてくれている。すぐに復旧するだろうと思い、仕事を続行していたのだが、オフィスは一向に明るくならない。スマホで、電力会社のサイトを確認してみると、どうやら回復までにしばらくかかりそうな様子だ。
 ライトがつかない位は困らないが、ノートパソコンのバッテリーが切れそうなのが問題だ。このままだと30分ともたないだろう。
 確かノートパソコンにも使えるAC出力対応の充電池が総務部にあったはずだ。バッテリーが切れる前にとりにいくことにしよう。
 
 スマホの懐中電灯アプリを使って、暗闇の中を進むと、総務室のドアから、光が漏れているのが見える。
 俺以外にも残業中、停電に見舞われた不幸なやつがいるんだろうか。
 中に入ると、おそらくは総務部の人間だろう女が、席に座ってスマホをぼんやりと見つめていた。
「お疲れ様です。残業ですか? 台風の中大変ですね。ちょっとバッテリーを借りたいんですけどいいですか?」
 女はゆっくりと顔を上げてこっちを見た。表情なく、うつろな目をしている。俺を見ているのか、見ていないのか、もしくは俺が今入ってきたドアを見ているのか視線が合わない。
「ちょうど良かった」
 女はスマホをデスクの上において、力なく立ち上がると、暗くてよく分からないが、何かをもってゆっくりと近づいてきた。
「一人は寂しいと思っていたから」
 なんの話だ? 逃げ出したい気持ちと、逃げてなにかの勘違いだったら恥ずかしいという思いとに挟まれて動けない。女の方にスマホのライトをむけるが、なんの反応もなく同じペースで近づいてくる。目の前に立って真っ直ぐに俺を見た。今度はしっかりと目が合う。
「一緒に死のう?」
 これはやばいやつだと思ったが遅かった。身体ごとぶつかってきて左わき腹に激痛が走る。ぶつかってくる瞬間、彼女が手に持っているものが見えた。果物ナイフだった。力いっぱい突き飛ばすと彼女は床に転がった。すぐに起き上がり、血にまみれた果物ナイフを拾うと、近づいてきた。俺の落としたスマホはライトを上向きにして落ち、周囲を下から明るく照らしてくれた。
 
 女は笑っていた。
 
 腹の痛みで意識がもうろうとしているところに追い打ちをかけるように再度ぶつかってきた。今度はその衝撃に切れず、俺は無様にも床に転がった。女は俺に馬乗りになると、謝りながら胸と言わず首と言わずめったやたらに刺してきた。
 
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
 ごめんね一回につき一刺し。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね……」
 
 なんで俺がこんな目に……。神様助けてください。

 手紙を読み終えると、付箋に書かれた文章を貼って剥がして並び替えるように、テキストを入れ替えることができるようになります。

 意識せずスマホに手が伸びる。SNSを見て回り、レスを付けたり、DMに返信したりしているうちに気付くと1時間たっていた。後悔で息がとまりそうになる。遊び過ぎた。
  • 私は座り直してノートパソコンに向かった。
  • いつの間にかバッテリーが10%を切っていたので、充電用のコードをつなげる。
  • その時、閃光が走り、オフィスのライトが消えた。少し遅れて雷鳴が聞こえてくる。

 これを入れ替えてみます。

 意識せずスマホに手が伸びる。SNSを見て回り、レスを付けたり、DMに返信したりしているうちに気付くと1時間たっていた。後悔で息がとまりそうになる。遊び過ぎた。
  • いつの間にかバッテリーが10%を切っていたので、充電用のコードをつなげる。
  • 私は座り直してノートパソコンに向かった。
  • その時、閃光が走り、オフィスのライトが消えた。少し遅れて雷鳴が聞こえてくる。

 テキストを入れ替えることで新たな物語が出来上がります。

 意識せずスマホに手が伸びる。SNSを見て回り、レスを付けたり、DMに返信したりしているうちに気付くと1時間たっていた。後悔で息がとまりそうになる。遊び過ぎた。
  • いつの間にかバッテリーが10%を切っていたので、充電用のコードをつなげる。
  • 私は座り直してノートパソコンに向かった。
  • その時、閃光が走り、オフィスのライトが消えた。少し遅れて雷鳴が聞こえてくる。

  •  停電だ。

     真っ暗なオフィスの中、ノートパソコンのディスプレイだけが周囲をほんのりと照らしてくれている。すぐに復旧するだろうと思い、仕事を続行していたのだが、オフィスは一向に明るくならない。スマホで、電力会社のサイトを確認してみると、どうやら回復までにしばらくかかりそうな様子だ。
     停電のせいでスマホの充電はほとんどできていなかったので、まだまだ余力のあるノートパソコンのバッテリーから充電することにした。
     
     ほどなくして、資料は完成したが、オフィスはまだ暗いままだった。
     仕事が終わったらこんなところに長居していてもしょうがない。スマホの電灯アプリを使って、転ばないように気を付けながら外に出ると、台風の勢いは大分弱まっていた。これならなんとか帰れそうだ。

 テキストの順番を変えることで 「ノートパソコンのバッテリーが切れかけているから充電する」 話が 「スマホのバッテリーが切れかけているから充電する」 話に変わりました。

「ノートパソコンの充電が切れかけているせいで、総務部にバッテリーを探しに行くことになり殺人鬼と出くわした」ので、「ノートパソコンではなく、スマホのバッテリーが切れかけている」ことにすれば助かるんじゃないか、と推理出来たら正解にたどり着ける、というわけです。

 これを繰り返して、ストーリーを進めていきます。

 今回は一人からの手紙だけですが、実際には二人並行して助けないといけないことがほとんどです。その場合は、片方の人の手紙のテキストをもう片方の人の手紙のテキストと交換することもできます。例えば、こんな感じです。

 意識せずスマホに手が伸びる。SNSを見て回り、レスを付けたり、DMに返信したりしているうちに気付くと1時間たっていた。後悔で息がとまりそうになる。遊び過ぎた。
  • いつの間にかバッテリーが10%を切っていたので、充電用のコードをつなげる。
  • 私は座り直してノートパソコンに向かった。
  • その時、閃光が走り、オフィスのライトが消えた。少し遅れて雷鳴が聞こえてくる。

 笑ってはいけないと思えば思うほど吹き出しそうになるのと同じで、死んではいけないと思えば思うほど死のうとしてしまう。
  • だめだ。早く帰ろう。
  • 突然ドアが開き、見ると見知らぬ人が立っていた。
  • 「これはちょうどいい」と思ってしまった。

 手紙をまたいでテキストを入れ替えてみます。

 意識せずスマホに手が伸びる。SNSを見て回り、レスを付けたり、DMに返信したりしているうちに気付くと1時間たっていた。後悔で息がとまりそうになる。遊び過ぎた。
  • いつの間にかバッテリーが10%を切っていたので、充電用のコードをつなげる。
  • だめだ。早く帰ろう。
  • その時、閃光が走り、オフィスのライトが消えた。少し遅れて雷鳴が聞こえてくる。
  • 「これはちょうどいい」と思ってしまった。

 笑ってはいけないと思えば思うほど吹き出しそうになるのと同じで、死んではいけないと思えば思うほどに死のうとしてしまう。
  • 私は座り直してノートパソコンに向かった。
  • 突然ドアが開き、見ると見知らぬ人が立っていた。

 それぞれ入れ替えたテキスト通りのストーリーになるというわけです。

 ちなみに片方だけ助かっても、もう片方が助からない場合は失敗です。二人同時に助けてあげましょう。

主人公たち

 中国、韓国、日本、メキシコと色んな国籍の人がでてきます。ネコもいます。
 ジャンルが、恋愛物、サイコパス物、ヒットマン物、クライム物、警察物、SFと色々そろっていて、各ジャンルにふさわしいキャラクターとなっています。
 また、各キャラクターごとにプロフィールを見ることが出来ます。

語句、用語解説

 テキストの中には、選択することで解説が読める語句があります。いわゆるTIPsです。製作が中国のインディーズで、世界で売るつもりで作っていますので、中国の文化について解説していたり、普通に豆知識だったり、単なるネタだったりします。

良かった点、面白かった点

 手紙という形式なので「手紙一通が一話」と明確で、一話自体が短く、連作短編のように短時間で区切って、気軽に読み進めていけます。
 また、フローチャートが手紙単位で出来あがるため、どのキャラの話がどれくらいまで進んでいるのかというのが、ビジュアル的にわかりやすくなっています。

ストーリーの特徴

 群像劇を連作短編で読んでいく形になります。
 プレイを迷っている人には重要な情報だと思いますので、ネタバレにならない程度にストーリーについてかきます。先入観なしに楽しみたいと言う人もいらっしゃるかと思いますので折りたたんでおきます。

「第三者が思うハッピーエンドと本人の幸福は違うんだぜ」的な感じや「主人公をハッピーエンドに導くために、ハッピーエンドになれないわき役もいるんだよ」的な感じの中二病的ペシミスティックムードを感じます。
 プレイ中はうっすらと感じられるだけのそれらの雰囲気が、最後まで遊べばそのテーマが明確になり、タイトルの意味も明かされることになります。

 タイトル前の注意書きで「ハンカチをご用意下さい」と出ているように、お涙頂戴ものではあるので、そういう話が嫌いな人はあわないかもしれません。
 私は元々ゲームで泣くようなことはありませんので、その点を高く評価することはありませんが、お涙頂戴ものとして評価するならよくできていると思います。
 各主人公たち一人一人の終り方は、多少オチが弱かったように感じました。しかし、全体の最終的なエンディングと、ゲームのシステム自体が面白いこととを加味したら、良作だったと評価できるように思います。

面白いけど惜しい!

 可能性は感じるもののまだまだ完成形とは言い難い部分もあります。「テキストを入れ替えてストーリーを組み替える」というのが肝なのに、「入れ替えたテキスト」と「入れ替えて出来たストーリー」が、今一つ噛み合ってないように感じることが後半になるにしたがって出てきます。

 前半はまだ、「これとこれを入れ替えるとこうなるだろうから」と推測して入れ替えて、その結果、実際にその通りになってくれるのですが、後半になり盛り上がってくるとともに話が複雑になってくるので、テキストの入れ替えで自分の予測するストーリーにもっていけないのがストレスになってきます。
 順列組み合わせで「動かせるテキストが何個で、動かせる場所が何カ所だから、総当たりでやっても、何種類か」と考えながら、全部の組み合わせを総当り的に試すようになるシーンもありました。

 ゲーム的には、”予測”と、その”結果”がぴったり合うのが一番気持ちよく(最初は間違えてもトライ&エラーの末に予測と結果があてはまる場合もこみで)、面白いと感じる人が多いだろうし、逆に予測が立たず総当たりで全部を試すことになると作業的すぎて、それを面白いと感じる人は少ないだろうと思います。
 単調なストーリーでは飽きられるし、かといって、複雑なストーリーにしすぎると予測が立たずゲームとしては総当りの作業に近づいていってしまいます。

 そういった意味で「作業的だ」と感じるところもあるのですが、「『ゲーム的な面白さ』と『ストーリー的な面白さ』が両立できるような工夫がされている」と感じられるところも多く、好感がもてます。きっと苦労したんだろうな、と思います。

まとめ

  • 手紙のテキストを入れ替えるというシステムが面白い。
  • 文系的な読解力と理系的な推理力とを駆使する。
  • 各主人公のエンドは弱いが、全体のエンドは良い。
  • アドベンチャー好きならやって損はない。

げいむすきお

たまに日本語が残念な感じだったり、野暮ったい言いまわしが気になることはありますが「ゲームの主体がテキストであるがゆえに少し気になる」という程度で、作品の雰囲気を壊すというようなものではないので許容範囲内かと思います。
 システムとキャラクターとシナリオが上手くマッチしていて、話題になるだけのことはあると思いました。

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