『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治【感想】倫理ではなく認知の問題。

内容(公式サイトから引用)

 児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。

(新潮社公式サイトより)

げいむすきお

 昔の刑事ドラマでは、取調室でカツ丼を出して「故郷のおっかさんが泣いているぞ」と犯人に自白を促すというお約束があった。これは犯人が「なぜ、故郷のおっかさんが泣いているのか?」を想像できることを前提にしている。ところが実際には、母親との関係が良好であっても、なぜ自分の犯罪と母親の泣いていることとが関係するのか想像できない人たちがいる。それが「ケーキの切れない非行少年たち」だ。


 いくら感情に訴えて反省を促そうとしても、発達障害や知的障害のために、理解力が足りず、何を言われているのかわからないのでは反省のしようがない。ただ、反省したふりをして、その場を乗り切ろうとするだけだ。


 じゃあ、どうしたらいいのか?
 そのことについて考える本。

作者の経歴

 京都大学工学部を卒業後、一旦は建設コンサルタント会社に勤務したが、神戸大学医学部を再受験する。

 医師免許取得後は、児童精神科医として公立病院に勤務。そこでは、発達障害・知的障害の診療にあたっていた。そこでの患者の中には犯罪行為を行った少年たちもいた。そういった患者の診察を続ける中で、病院内で出来ることに限界があることを感じ、少年院の中でも特に発達障害や知的障害を持った少年たちが集められる矯正施設である宮川医療少年院(三重県)への転勤を決める。

 2009年1月から2015年の1月までの6年間、宮川医療少年院に勤務したのち1一年間だけ交野女子学院(女子少年院)にも勤務

 その翌年の2016年に立命館大学産業社会学部教授となる。

『ケーキの切れない非行少年たち』はこんな内容

目次

はじめに
第1章 「反省以前」の子どもたち
第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
第3章 非行少年に共通する特徴
第4章 気づかれない子どもたち
第5章 忘れられた人々
第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える
あとがき

『ケーキの切れない非行少年たち』目次

ケーキを切れない少年たちとは。

 発達障害・知的障害を持ち、反省以前の問題がある少年・少女たちのこと。

 著者が児童精神科医として少年院に入所中の少年との面接時、A4用紙にケーキに見立てた円を描き「3等分してください」と課題を出した。すると、少年は円の真ん中に真っ直ぐ2等分するように線をひき、そこから固まってしまった。このことがタイトルの由来。

特徴

 数百人の非行少年と面接を繰り返した著者が感じた彼らに共通する特徴として、以下の5点+1点が挙げられている。

  1. 認知機能の弱さ
  2. 感情統制の弱さ
  3. 融通の利かなさ
  4. 不適切な自己評価
  5. 対人スキルの乏しさ
  6. (身体的不器用さ)

 これらの特徴は全てそもそもの認知機能の弱さに由来している。状況を正しく理解できていない(認知機能の弱さ)から、自分の勘違いで怒ったり、怒ってさらに後先が考えられなくなったり(感情統制の弱さ)、冷静になったとしても思い込みを正せなかったり(融通の利かなさ)、怒りっぽく融通が利かないために適切な人間関係が築けず、他人からの評価を受け入れられず(不適切な自己評価)、対人スキルを育てることができなくなったり(対人スキルの乏しさ)している。

 身体的不器用さに関しては、小さいころから何かしらのスポーツをしていて、目立たないことがあるから括弧書きとのことだ。

病院での限界

 病院で行う知的障害や発達障害の検査は、数値(IQ)の高低で評価される。そのため、一定の数値をクリアしていると正常とされてしまう。クリアぎりぎり程度の数値だった人間は、その数値を下回る人間とそれほど大きく違いはなくても、一律で問題なしと判断され、何の治療も施されずに放置されてしまう。

 また、検査は社会で必要な能力を全て見ているわけではない為、IQが高く出たとしても、社会に適応できるかどうかはまた別の話といった問題もある。

教育の現場ではどうか?

 上記のように、病院で「知的に問題がない」となると、本人の性格の問題、育て方の問題とされる。

 定番の「子どものいい所を見つけてあげてほめる」教育がなされるが、そういった少年たちに褒める教育は効果がないと著者は主張する。

 褒める教育とは、つまり、得意なことを伸ばす教育である。逆に言うと苦手なことを放置する教育である。苦手とはいえ社会生活に支障をきたさないレベルを満たしていればそれで問題ないが、社会生活に支障をきたすレベルでありながら、放置するということは「問題の先送りである」というわけだ。

 また、学校で学習面での能力・身体面での能力を向上させるための支援は可能だが、社会面での能力を向上させる支援は出来ていない。

では、どうすればいいのか。

 認知能力を鍛えることで、正しい現状理解ができるようになり、自ら向上しようという意思が芽生える。そのためには、コグトレ(認知機能強化トレーニング)が有効である。

コグトレとは。

 認知機能を構成する5つの要素(記憶、言語理解、注意、知覚、推論)に対応する「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」の5つのトレーニングからなる。漢字や計算ドリルでは出来ない子供が、出来ないことに傷つくことになるが、これはゲームのような課題であるため、楽しみながら取り組める。

まとめ

  • これまで更生の手段としてよく「認知行動療法」がよく使われてきたが、それでは更生できない非行少年が一定数いる。
  • 「認知行動療法」は認知能力に問題ないことを前提に作られているため、認知能力が弱い人間には効果がない。
  • 認知能力が高まれば「なぜ反省が必要か」が理解でき更生につながる。
  • そのための方法としてコグトレが有効である。
  • コグトレの教材は、同著者の「コグトレ――みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング」に含まれている。
げいむすきお

 ある事柄に関して能力の低い人間は、その事柄に関して知識がないがゆえに評価基準がわからず、自身の能力不足を正しく評価できず、自分は他人よりも優れていると勘違いする錯覚をダニング=クルーガー効果というらしいが、「認知能力が低く現状の正しい理解ができない」ということは、ダニング=クルーガー効果がすべての面で起こっている状態ということになるのだろう。そのため、出来る事をできる範囲でやっていくことも出来ない。認知能力を高め、現状を理解することで、ようやく自分が間違っていることに気付き反省をすることが出来るようになる。


 この書籍は、話が同じところをぐるぐる回る。そうしながら、少しずつ少しずつ肉付けをしていくように論を進めていく形式だった。同じ話が等も出てきてしつこいようにも感じるが、分かりよくはあった。

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