『ブスの自信の持ち方』山崎ナオコーラ【感想】ブスでも何でも人は良さそう。

内容(公式サイトから引用)

 ブス本人は変わらなくていい! 社会が変わる!


 容姿差別は、気にする方が「気にしないように」と考えや容姿を変えるのではなく、加害者の方が変わる方がいいんじゃないかな。被差別者が変わるんじゃなく、社会が変わった方がいいんじゃないかな、と書きました。(山崎ナオコーラ)


 性別とは? 差別とは? 社会とは?


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(誠文堂新光社公式サイトより)

げいむすきお

 高校のクラスメートの一言が今も心に残っている。

 同じ学年に、すごい可愛いすきこさん(仮名)とちょっと可愛いいやよさん(仮名)がいた。二人とも気が強くて、物事をはっきりと言いきるタイプの女性だった。同じ様な事を言っているはずなのに、すきこさんはみんなに受け入れられている一方、いやよさんには反感を持つ人がちらほらといた。そのことに対してまた別のクラスメートの女性が「すきこさん位可愛ければ、全部みんなに受け入れられるけど、いやよさん位だとここまでしか許されないんだよね」と、小さな声で呟いた。

 その言葉が全てその通りだとも、全く違うとも判断できない。可愛いから許す、可愛くないから許さないと意識的に区別しているわけではなくとも、同じ言葉であっても見た目に影響されて受け取る印象が変わっている可能性がある。可愛い子に言われたときは何とも思わなかったことが、可愛くない子に同じことを言われたときにイラっとするというようなことはあり得ることだ。本来はそんなことはあり得えていいはずがない話なのだが……。

『ブスの自信の持ち方』はこんな内容

目次

第一回   はじめに
第二回   自信、そして「勘違いブス」について
第三回   自信を持たない自由もあるし、持つ自由もある
第四回   差別語と文脈の関係
第五回   恋愛
第六回  「容貌障害」についてなど
第七回   結婚、それとトロフィーワイフのことなど
第八回  『源氏物語』の末摘花のこと
第九回  『シラノ・ド・ベルジュラック』における友情
第十回   アイドル総選挙
第十一回  自信を持つには
第十二回  他人に努力を強要していいのか?
第十三回  自虐のつもりはない
第十四回  骨や死に顔を見るな
第十五回  ノンバイナリージェンダー
第十六回  差別と区別
第十七回  新聞様(一) 被害者の顔写真をなぜ載せるのか?
第十八回  新聞様(二) 「右」とか「左」とか
第十九回  新聞様(三) カテゴライズ
第二十回  新聞様(四) くだらない話
第二十一回 新聞様(五) くだらない話の続き
第二十二回 痴漢(一)
第二十三回 痴漢(二)
第二十四回 痴漢(三)
第二十五回 化粧
第二十六回 一重まぶた
第二十七回 虚栄心とか美への欲望とか
第二十八回 強者の立場になってしまうこともあるという自覚
第二十九回「おじさん」という言葉
第三十回  本当に「ブス」と言ってはいけないのか?

『ブスの自信の持ち方』目次

ブスと言う言葉について。

 単体で使うだけでも誰かを傷つける可能性があるようなリスクのある言葉ではあるが、著者の考え方を尊重し、このページでは「容姿が悪い女性。外見が醜い女性」のこととして「ブス」という言葉を使う。

 著者の主張は”「社会から『ブス』という言葉を消すことがブス差別をなくす」という考え方もあるだろう。でも、私は反駁したい。“”「ブス差別について話したい」と切り出した人に、「ブスなんて気にしないでよ。自分で自分をブスって言ったら駄目だよ」と返すのは、ただのコミュニケーション拒否だ。“”いじめの被害者に、「いじめなんて気にしないでよ。自分で自分をいじめられっ子って言ったら駄目だよ。いじめられているなんて他人に言ったら駄目だよ」というくらいひどいコミュニケーションだ。“というものであるため、あえてブスという言葉を使っていく。

著者はブス?

 著者は子供の頃からブスを自覚している。作家としてデビューし、ネットに顔写真が出た際にはブスだと中傷のコメントが相次いだ。自虐でもキャラづくりでも笑いをとろうというのでもなく客観的事実として、著者は自らをブスだと説明している。

 ただ、ブスであることは悩んでいない。美人になりたいとも思っていない。悩むのは「ブスだ」と罵詈雑言を受けること、ブスが目立つと仕事の妨害をしてくる人がいることであり、そういったことを当然とする社会を変えたいと考えている。

ブスは自信がない?

 タイトルの『ブスの自信の持ち方』を、素直に解釈すると「ブスはみんな自信を持てないでいる。だから頑張って自信を持たないといけない。こうすれば自信を持てる」というようなことが書かれているのかと思ってしまう。しかし、そうではない。この本は「ブスでも自信を持て」と説教をしてくるような本ではない。「なぜブスが自信を持てずにいるのか」を指摘し、どういう状態になれば良いのかを考えさせる本だ。それはブス自身に対して言っているだけではなく、美人や男性にも同様に問いかけ考えさせようとする。

 もちろん、ブスだろうと美人だろうと自信を持つか持たないかは本人の自由だ。だが、現状ではブスが自信満々な姿で目立っていると「ブスが調子に乗っている」「勘違いブス」と罵られてしまう。自信を持つという選択肢が潰されてしまっているのが問題だと著者は主張する。

ブスは自信を奪われている

 もちろん、みんながみんな「ブスが調子に乗るな」と言って罵るわけではない。しかし、何%かでもいることは誰も否定できないと思う。そのわずか何%かにでも罵られたとしたら心が折れるだろうと思う。また、自分で罵らずとも、罵られても仕方がないと思っているような人ならそれなりの人数になるだろうと思う。

著者自身の体験談

 著者は大人しい性格で小中高と目立つことは避けてきた。おかげで性格を馬鹿にされることはあっても、ブスと罵られることはなかった。それが作家としてデビューし、人前に出るようになって、ブスだと罵られるようになった。匿名掲示板で「自信過剰・山崎ナオコーラ」というフレーズが頻繁に出てくるようになった。自分のホームページに顔写真を載せたら友人にメールで「頭がおかしくなったの?」とまで言われる始末だ。無論、悪意で言っているわけではなく、叩かれることを心配してのメールだろうが、「顔が悪いと叩かれる」というのが前提にあって、叩かれるような顔だと認識しているということだ。

勘違いするな“”身の程をわきまえろ“”自分の顔が世間でどの程度のランクに属しているかを認識したうえで、社会的な行動をしろ“などなど、様々な誹謗中傷を受け著者は考察した。その結果、“世間はブスの存在を消したいのではなく、隅っこに行かせたいに違いない“という推論に行きついた。

 みんな容姿のことで悩んでいる。美人を前にすると十人並みの自分は隅によらないといけないと考えている。そのことに納得しているわけではないが、どうしようもない。だけど、十人並みの自分でも強く言える相手がいる。ブスだ。ブスになら「でしゃばって真ん中に出てくるな」と言える。だから、ブスは存在していてほしい。そういう感じのことだ。

敵は誰か

 人は「美人対ブス」や「男対ブス」といった対立軸を作りたがるが、話はそう単純ではない。著者は”バッシングしてくる人が敵“であって”バッシングしてくる人には、男も女もいる“ことがわかっている。そして”きれいになりたいのではなく、バッシングを不当と感じているだけ“であり”決して『仕返ししたい』『上位に立ちたい』のではなく、『社会にゆがみがあると訴えたい』“のである。

読後感

 目立つブスは叩かれると認識しているが故に身についてしまった自己保身術なのか、傷つけられる痛みを知っているが故に誰も傷つけたくないという気持ちからくる優しさなのか、割と強い言葉を発してはいるのだが、言葉にトゲトゲしさがなく、読んでいて自分が非難されているような嫌な印象は受けなかった。

 著者は”「女性の地位の低さ」ではなく、「性差を強調する社会」に苦しんできた“。だから、「女性は虐げられている」「女性にもっと権利を!」という主張ばかりを強調する嫌われるタイプの古い昔のフェミニズムとは違い、男でも女でも、美人でもブスでも「性差を強調する社会」に苦しんでいる人はみんな同列であって、 “「女性は常に弱者なのだから、男性に対して強くい意見を言って良い」という考え方に疑問を覚える“と書いている。

「この人は男」「この人は美人」というような単純なカテゴライズをしたりだとか、そのカテゴリーをまとめて非難したりするようなことはせず、悪いのは「『ブスは隅っこで大人しくしてろ』とブスを蔑視する人間」と、「それを許す風潮」であり、「変わるべきは社会だ」といった話で、男が読んでも共感できるような内容だった。

 細かく見ていくと「それはどうかな?」と思うところも多いが、そんなことは気にせずに読んでいけるだけの力が文章にあるし、大筋の「『ブス』という外見に属する一つの要素に過ぎないものを拡大解釈するのをやめよう」というような主張に説得力があるため面白く読める。

 あと、誹謗中傷の原因となった顔写真を検索で簡単にヒットしなくなるまで、あちこちのサイトや掲示板に一箇所一箇所削除依頼を出していって最終的にうまくいったというエピソードは、その手間を考えると素直にすごいと思う。

げいむすきお

 大筋は概ね同意とは言え、「それはどうかな?」と思ったり、あまりピンとこなかった話もいくつかあるので、それらのうち、当たり障りのなさそうなものだけあげてみる。

ピンとこなかった話その一。

 痴漢の話は男女で認識の差が大きい。そのため、あの手この手でその差を埋める必要がある。しかし、だからといって、男女を入れ替えて「あなただったらどうか?」という話は、どうしてもピンと来ない。こんな記述がある。

ここで、リアルに想像してみてもらいたい。たとえば、あなたが性欲が強いタイプの男性だとする。男性だって被害者になる。そう、男性のあなたが被害者だ。あなたが、公共の場で自分の意志に反して他人から体を触られる。どうですか? 嬉しいですか? その触ってくる相手があなたを選んだ理由は、あなたのことをおとなしそうな見た目だと捉え、他人に流されやすそうだと適当に判断し、抵抗しなそうだと侮ったからだ。
被害者のあなたは、たとえ体が反応して快感を味わったとしても、決して「嬉しい」とは思わないだろう。自分で自分の体をコントロールできなかったことに、大きな不安と深い屈辱を感じたはずだ。
その場できちんと抵抗できなかったとしたら、自分に対しても懐疑的になってしまい、自信を失うだろう。”
“その後、人間としての権利を踏みにじられたことを日に日に認識し、犯人に対して激しい怒りが湧いてくるに違いない。
それから、社会に対する信頼感もなくし、生きづらさを抱えて生きることになるだろう。

 痴漢が、単に体を触られたというだけではなく、社会への恐怖を感じる出来事の一つだというのはわかる。人間としての権利を踏みにじられたと感じるのも、確かにそうだろうというのも思う。だが、それが自分だったらどうかと言われても一切ピンと来ない。私が痴漢行為をうけたとしたら、確かに恐怖は感じるだろう。逆らったら危害を加えられるかもしれないという物理的な恐怖だ。しかし「こいつ私のことを侮っているな」とはならないし、仮に体が反応して快感を味わったとして、「嬉しい」と思わないのは当然にしても、「自分で自分の体をコントロールできなかったこと」には不安も屈辱も感じない。それは二次性徴以前の子供のころから、性的なことに関して自分の体はコントロールできないものだと分かっているからだ。男性は大抵そうじゃないだろうか?「知り合いの男性に触られて、体が反応して、そのことをみんなの前で言いふらされる」というようなことであれば屈辱だろうが、それもあくまで一連の流れ全てに対しての屈辱であって、体が反応してしまったこと自体は別に仕方ないことだと思う。男はみんなコントロール出来ないし、出来ないことはしょうがないという共通の認識があるから、わかってもらえるだろうというのもある。

 ……と、私は思っているけど、実際のところ、私以外の男性はどう思っているのだろうか。

ピンとこなかった話そのニ。

 あと、女性の美を追求する気持ちに関しても納得しにくい。

整形を繰り返す女性の物語が巷にあふれているが、「女性が持つ美への欲望はすさまじい」系の結論になっている。
私は首を傾げる。女性にだけ生まれつきそんな欲望が備わっているなんてことがあり得るだろうか?
私は医学に詳しくなく、ただの勘だが、そんな欲はないと思う。
集団で生きる動物なので、「社会的に上位の存在を目指す」という欲はあるだろう。その流れで「社会で上位にいくための手段として美を身に着けたい」という考えになることはあるかもしれない。でも、純粋な「美への欲」というものはないと思う。
「美しくなりたい」ではなく、「社会的に上位の立場になりたい」「権力者になりたい」ということだと思う。”
男性にも、「社会的に上位の立場になりたい」「権力者になりたい」という欲があるだろう。それと同じものを女性も持っているという、ただそれだけのことだ。

「女性だから」美を追求するのではなく「女性が社会的に成功しようとすると美しさが切り札になることがあるから」美を追求する。女性が個人で存在したときに美を追求する欲はなく、「美しくないと生きていけない」と思わせる社会があるから、社会的に成功しようと思うと女性は美を追求せざるを得ないのだ、という話で、”「美しくないと生きていけない」と女性に思わせたのは、社会だ“と書いている。

 個人差が大きい話だというのはわかった上で、これもどうなのかな、と思う。極端な話だが、衣食住の心配がない無人島で感情のないロボットに育てられた女性だったら、さすがに美しさを求めたりはしないだろうと思うが、女性二人が一緒に育てられた場合はどうだろうか? 女性三人ならどうだろうか? 女性三人と男一人ならどうだろうか?

 社会的に認めてもらいたいということはあると思うが、社会的成功のためだけに美しさを求めているというのはどうなのだろうか?

「結婚するなら『不細工な金持ち』と『貧乏なイケメン』どっち?」というような選択肢だと、不細工な金持ちが選ばれることが多いが、「自分がなるなら『社会的に成功して金もあるけど整形が出来ない位ブス』と『まわりにちやほやはしてもらえるけど社会的地位は低く死ぬまで貧乏から抜け出せない美女』どっち?」だったらどちらを選ぶ人が多いんだろう?

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