『カレンの台所』滝沢カレン【感想】面白いけどツッコミすぎて疲れてしまう。一度に読まず、ゆっくり読み進めるのがいいだろう。

内容(公式サイトから引用)

 レシピとは思えないその詩的な文章は、時には食材目線にまでおよび1つの料理ができあがるまでの壮大な物語に吸い込まれ、実際に作らなくても、読むだけでも面白い!


 本書用に新たにたっぷり書き下ろしたものを含む、豪華全30メニュ ーを掲載。


 レシピだけどレシピじゃない。
 爆笑。なのにつくれる。うまい。


 今まで誰も読んだことのないレシピ文学です。

(サンクチュアリ出版公式サイトより)

げいむすきお

 一体この本のジャンルはなんなんだろう。タレント本、レシピ本、エッセイ集、日記、ポエム集、短編小説集……。


 いくら考えてみてもどのジャンルに分類すればよいのかわからない。Amazon.comや楽天には、”読むだけで作れる、自由で楽しい魔法のレシピ“というようなことが書かれていたが、決してそのようなものではない。読むだけでは作れない。自由だし、楽しいが、レシピかどうかはあやしい。もし、「料理の手順が書かれている『料理のレシピ』」の意味ではなく、「何らかの魔法を呼び起こす手順が書かれている『魔法のレシピ』」の意味で「魔法のレシピ」と書いているのだとしたら、「もしかしたらそうなのかもしれない」と少し納得しかけてしまうくらいの内容だ。


 料理をすることがなく、レシピ本を読む機会がない私でも、書き忘れた具材を最後に「P.S.」として載せてくるような料理のレシピ本はないと断言できる。「『塩少々』なんて書き方では曖昧過ぎてわからない」。料理初心者がレシピ本を見た感想としてよく聞く話だが、この本はそんなレベルをはるかに超える。「塩胡椒をややむせるほど、マヨネーズを宝石一粒添える程度入れ」と言われて、「振りかける時にむせるほど入れるの? 食べる時にむせるほど入れるの? 宝石一粒? ルビーか? ダイヤか? スワロフスキーか? 具体的に言うとどれくらいなんだ?」と混乱してしまうのは、私が理系だからだけではないはずだ。ましてや、お醤油、みりん、お酒、お砂糖、ごま油を「早足で来てサクッと帰宅するくらいの量でお願いします」に至っては、何を想像してよいのかすらもわからない。


「日本語が下手なタレントの変な文章を読んで笑おう」というような悪趣味なものではなく、発想とその発想を表現する言葉の選び方が面白い一冊。

『カレンの台所』はこんな内容

 タレント、女優としても活躍するファッションモデルの滝沢カレンが、料理を作る工程を物語仕立てで教えてくれる。具材を擬人化して、必要な具材の量や料理の状態を伝えてくれることが多い。調理時間もなんらかの比喩で表現されている。料理のレシピ本としてみると、ある程度料理のわかった上級者じゃないと必要な具材の量、料理の状態、調理時間を理解することは難しい。

 滝沢カレンのとぼけていながらも誠実そうなキャラクターが楽しめるタレント本でもあり、独特の表現で予想する話の流れを裏切ってくるユーモアエッセイ集でもある。

独創的な表現

 ネガティブな言葉をポジティブに使ったり、全く違う遠いジャンルの言葉を組み合わせて一つの物事を形容したり、他ではみることがないような表現を多用する。それらの表現は、大体が「上手い事を言っている風」で誇らしげに使われているのだが、大体が「よくよく考えるとあまり上手く言えてないぞ」と感じる。ただ、だからと言って表現として寒いわけではなく、むしろ笑えて気持ちが暖かくなる。

一番の魅力

 一番の魅力は作為のなさだと思う。押しつけがましくないところがいい。「良い表現でしょ?」「面白いでしょ?」「ここ笑う所ですよ」というような嫌味に思える文章が一切ない。

 そのため初読時は、目立つようにオレンジ色の太字になっている箇所――つまり文章そのものではなく文章を強調するための細工、編集――に、バラエティ番組の録音笑いのような作為を感じてしまい、「余計なことを……」と少し思ったのだが、これも滝沢カレンの文章を読みやすくして、より楽しめるようにするためのものだと思ったら、気にならなくなった。

「本当に素なのかな?」と思わなくもないが、素で書いているものとして素直に受け取って、ツッコミを入れながら読むのが一番楽しいんじゃないかと思う。

何が面白いのか

 独創的な表現を一つ一つ見ていくと「素のように見えるから面白い」、「狙って書いていたとしても面白い」、「おかしな表現だが意外と悪くない」といくつか種類がある。

思い込みが過ぎる

 これは「素のように見えるから面白い」に分類されるものだが、完全に滝沢カレンの思い込みで「確かにそう思う人もいるだろうけどみんなそうではないから」と、思うような部分が多数ある。

 例えば、ハンバーグのタイトル絵に関しての表現。”昔の掛け軸に出てきそうな山に見えてますのがハンバーグです。積乱雲のようにそびえ立つのは、サニーレタスです。“当然のように「昔の掛け軸に出てきそうな山」「積乱雲の様にそびえ立つ」と書いているが、山のような形のハンバーグは、まだ表現としてわかるとして、サニーレタスを積乱雲の様にそびえ立つと表現することは、通常ならまずない。そもそも説明が必要なイラストではない。見たまんま、ハンバーグとその付け合わせだ。大体の人は説明不要だと思う。

 それでもあえて書いてくれるのは、わかりにくいと思ったからだろう。

期待を裏切られる表現

「狙って書いていたとしても面白い」ものに分類されるものの一つとして、「期待を裏切られる表現」がある。「この話の流れで来るならこうくるだろう」と、思っていたら、全然違う結論にたどり着く。意外性の笑いだ。

 特に括弧書きでの注釈が良い味を出している。

元の場所に戻して水気を何かで吸いとってあげてください(キッチンペーパー濃厚)

 これは、サバの味噌煮を作る過程での記載だ。上から読み下していくと、まず”何かで吸いとって“の部分で「何かってなんだよ。キッチンペーパーとかでしょ」とまず思う。すると、次に括弧書きでキッチンペーパーの文字が出てきて安心する。しかし、その表現は”キッチンペーペー濃厚“。「濃厚ってなんだよ。だから、キッチンペーパーでしょ」とこちらの想像する話の流れを微妙に外してくる。そして、「キッチンペーパーで水分を吸いとってください」と、キッチンペーパーを使うように断定的に指示しないところに、キッチンペーパーでなくてもいいんだよ、という優しさも感じる。

上手い事を言っているようで上手くはない

「上手いこと言っているようで大して上手くないぞ」と思われる表現が沢山あるように思う。しかし、そんな表現でも何度か読むうちに「おかしな表現だが意外と悪くないんじゃないか」とゴリ押しで思わされてしまう力が滝沢カレンの文章にはある。

 例えば、ハンバーグがどれほど好きかについて”ハンバーグでだけ言うなら間違いなく年齢分以上に作っています。なぜなら、大好きな食べ物チーズがこの世にないとしたら第一位だからです。“と説明している。

 この本が書かれたとき、滝沢カレンは27歳。生まれてから今までで一年に一回以上はハンバーグを作っているというイメージで書いているのだろうか? 何歳ごろから料理をするようになったのかわからないが、あまり多さが伝わってこない。チーズがなければ一位という事は単純に考えて二位だ。ハンバーグよりもチーズの方が好きなんだな、ということの方が印象に残る。それでも、ハンバーグが好きで、沢山作っているんだということを言いたいんだなということだけは、力強く伝わってくるので、それで納得してしまう。

一読だけで理解する必要はない

 主語や目的語がなく、主観と客観の境目が曖昧なことがたびたびある。本人の中では話がつながっているのだろうが、読んでいる方は話のつながりが見えず混乱する。何度か読んで、理解出来て「なるほど。これはこういうことが言いたかったのか」と思う部分も多い。

 理解できたあとはじわじわと面白さがこみあげてくるので、理解をあせらずゆっくり楽しむのがよいと思う。

まとめ

面白いと思う要素
  • ポジティブな内容の話をしてるのに、ネガティブな言葉を使う。
  • 普通は同時にみることのない別ジャンルの言葉を組み合わせた表現が楽しい。
  • 上手いことを言おうとして、全然上手くないぞと思うものも多いが、それでも表現として失敗ではなく、それもありかと思わされる。
  • 具材を擬人化して表現してくれることが多いのだが、シチュエーションが独特。
  • 一旦擬人化設定が終わって、話が変わったかと思っていたら、忘れたころに同じ設定がまた出てきて、まだその擬人化の設定が続いていたのかと、意表を突かれる。

最後に

げいむすきお

 普段タレント本を買うことはないし、そもそもタレント滝沢カレンのファンでもないのだが、電子書籍サイトで試し読みをしたら面白かったので、思わず買ってしまった。


 あまりに独特な表現、ストーリーテリングなので、意味を理解してツッコみながら読もうとするとすぐに疲れてしまう。一日数作品ずつゆっくり読んで、のんびり楽しむのがよいだろう。

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