未開のジャングルに突如出現した謎のダンジョン

 私の名前はアコニットといいます。チーム「InTheBush」のリーダーをさせていただいております。チームと言っても、私だけしかいないんですけどね。

 それはさておき、「InTheBush」では、アストルティアに潜む誰も気にしないような様々な謎を見つけ出そうと思っていますので、以後、お見知りおきをお願いいたしします。

未開のジャングルに突如現れた謎のダンジョン

 先日、そんな私の元に衝撃の情報が飛び込んできました。現地民以外に足を踏み入れる者はほとんどいないであろう未開のジャングル。その中にあって、その現地民すら見ることがないような最奥の地。そこに、一体何のために建てられたのか、不可解な家が突如現れたというのです。話によると「外装は至って普通の一軒家だが、中は全く普通ではない」とのこと。

 それは一体どういうものなのでしょうか──。

 調査を進める中で、私は非常に重要な情報を手に入れました。その謎の一軒家の内部への潜入に成功した男がいるというのです。そして、その男の手記の入手にも成功いたしました。以下の文章は、その謎の一軒家への進入に成功した男の手記です。

 ご覧ください。


 ジュレット住宅村の未開のジャングル地区437丁目6番地にそれはあった。

 外から見る限りは普通の一軒家だ。

 中から家族団らんの声が聞こえてきても、なんら不自然に思わないような本当に普通の一軒家。

 しかし、ドアを開けた瞬間、その印象は大きく覆された。

「なんということだろう。ここはおよそ人が生活を営むような所ではない!」

 冷たい石畳もそうだが、人ひとり分のスペースを残して、周りを石壁に囲まれた場所で生活をしたいという人間がどれほどいるだろうか?

 淀んだ空気、かびのにおい、体にまとわりつく湿気──全てが来訪者を拒絶する。

 これはもはや家ではない。ダンジョンである。

 入ってすぐの右手側に細い小道があり、それは奥へと続いていた。私はそこを慎重に進む。最初の分岐を右に曲がると、よりいっそう湿度の高い空気に包まれた。私は湿気の原因を探ろうと、さらに奥に進む。

 進めば進むほどに湿度が高まっていく。

 ねっとりと絡みつく重い空気に、歩みが鈍る。歩みが鈍るのは、身体が重くなるからではない。歩みが鈍るのは、心が重くなるからだ。

 一体、この奥にはなにが──。

 先にあるものを隠すように二枚の板がたっている。手前に一枚と、少し離れた奥側にもう一枚。その二枚が左右互い違いに立っており、視界をふさいでいる。おそらく、中が見えないように意図的にそう置かれているものと考えられる。

 隠されていれば見たくなるのが人の常。

 私は恐怖と好奇心がないまぜになった緊張感の中、一枚目の板をよけ、もう一枚の板までたどり着くと身体を乗り出して、奥を覗いた。

「これはいったいどういうことなんだ!」

 私は自らの眼を疑った。次に自らの正気も疑った。しかし、どちらも問題あるようには思えない。
 眼はいつも通りに真実を写しているし、私自身がおかしくなってしまったわけでもない。

「おかしいのはこのダンジョンを作った奴だ」

 私はこのダンジョンを作った者の狂気を確信した。

 これは風呂だ。何故、ダンジョンの中に風呂が……。道理で湿気が強いはずだ。こんな換気の悪いところに風呂を作るなんて、このダンジョンを作った奴はまともではない。

 慌ててその場から離れる。後ろから何かに追いかけられているような気がして振り返るが当然なにもついてきていない。

 来た道を戻るつもりが間違えてしまい、さらに奥に入ってしまったようだ。見たことのない曲がり角を曲がり、T字路にぶつかった。

 右か、左か──。

 右を向くと、またしてもダンジョンの主の正気を疑う物体が落ちていた。広く平らなずた袋が三つ。一番つぶれて平らになっている一つの上に、覆い被さるようにもう一つ、最後の一つは比較的ふんわりと盛り上がっており、覆い隠せていないところに乗っかっている。

 これはまさに布団だ。よくもこんなところに。こんな薄い布では石畳の冷気を遮れるようには思えない。じめじめした上に底冷えのするこんなところでまともに眠れるものなのだろうか。

 私はもうどうにかなりそうだった。

 そこから逃げるように私は走りだした。

一目散に走った。

 もはや自分がどっちを向いていて、入り口がどっちにあったのかもわからなくなってしまっている。

 どれぐらい走っただろうか──おそらく最深部だと思われるところに辿り着いた。そこにそれはあった──いや、いたというべきだろうか。

 人──だろうか?

 そのときである。突然、目が開く。

 そして、口を開いた。

「誰だ? 吾輩の眠りをさまたげる者は?」

 低い声がダンジョン内に響く。

「まあよい。貴公が誰かなどはどうでもよいこと」

 何に納得したのか、一人、ゆったりと一度頷いた。

「吾輩はげいむすきおである。よくぞここまで参った」

 長く続いた緊張状態に加え、あまりの恐怖を感じたためか、私はそこでついに意識を失ってしまった。途切れ行く意識の中で、男の声が聞こえてくる。

「今日のところはまだ大して見るべきものはないが、ダンジョンの気分を楽しんでもらうことはできただろうか?」

 男は一方的にしゃべり続ける。

「今はテーブルもなく、茶を出すこともできぬが、少しずつ改良しておるため、たまに覗きにくると良かろう」

 もはや、私が聞いていようが、聞いていまいが関係ないようだ

「ただ、吾輩としてもいつもここにいるわけにはいかない。次に来たとき、もし吾輩がいなければ、スライムチャイムに一言残していくとよい」

──。

「いや、次回と言わず、折角であるから、今回もスライムチャイムに一言残していくがよい」

 そういった後、少し間があり、含み笑いが聞こえ、一言付け足された。

「スライムチャイムを見つけることができれば──の話であるがな」

 意識が完全に途切れる直前、最後に思ったのは「尊大な口調の割にはフレンドリーだし、この男、意外とおしゃべりだな」ということだった。


 そこで彼の手記は終わっていました。 その後、この手記を書いた男がどうなったのかはわかりません。 このダンジョンの場所に関するヒントは「ジュレット住宅村 未開のジャングル地区 437丁目 6番地」というものだけです。

 もし、このダンジョンを見つけることができたなら、ご一報ください。

 信じる信じないはあなた次第。真実はいつも藪の中。
 チーム「InTheBush」リーダー・アコニットがお送りいたしました。

2 COMMENTS

アバター 匿名

壁がカメラを防いじゃう…
作るのホント大変だったとおもう〜
いろいろとおつかれさまです!

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げいむすきお げいむすきお

吾輩はげいむすきおである。
視界が壁にふさがれてしまうのは永遠の課題であるな。
窓やドアを変更する際、管理人に「こんな感じになりますよ」と言われるが、その時も壁のせいで一切見えぬ。
作る時もやはり壁に視界をふさがれ、うまくおけぬのである。
全くもって大変であった。
ねぎらいの言葉、ありがたい。感謝する。

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