キングオブキングス
その日、吾輩が魔法の迷宮を訪れたのは、単に「チームクエストの課題に挙がっていたから」というだけの理由であった。
課題のためだけであるから、最深部に待つ迷宮の主を倒し、倒せば振りだしに戻り、戻れば新しいメンバーに挨拶をし、挨拶が終わればまた最深部を目指すというお決まりの行為を無味乾燥にこなしていけばそれでよいと思っておった。強制的に組まされた即席のパーティメンバーでも、挨拶以上の声をかければ、多少なりとも味も湿り気もつくであろうとは思うのであるが、元来、吾輩は口が重たいほうであるためそれもできぬ。
そんな中、にわかに熱を帯びる出来事があった。
ゴールドマンである。
メンバー同士、口々にこの僥倖を喜び合う。吾輩は実物を見たのは初めてである。どうやらそれはパーティメンバーも同じであったらしく、戦闘が始まり、皆がまずしたことは「みやぶる」であった。
無事ゴールドマンを倒し、その奥に鎮座する迷宮の主を倒すと、ともに戦ったメンバーに別れを告げて、新たな迷宮へと向かった。そのころには、ゴールドマンと出会った熱はすでに冷めておった。
[prpsay img=”https://gamesukio.com/dq10/wp-content/uploads/gamesukio_face.png” name=”げいむすきお”] 今からすれば「ゴールドマンごときでなにを……」と思われるであろうが、魔法の迷宮の隠し階にゴールドマンが実装されたのがバージョン1.5(2013年7月25日)で、この出来事が8月の終わりである。実装して一ヶ月ほどしかたっておらぬころの出来事であるため、みな興奮しておったのである。[/prpsay]新たなパーティメンバーに挨拶をすると、また最深部を目指す。粛々と魔物を倒しつづけて辿り着いた4階の扉。扉を開くとまたしても隠し階であった。軽い気持ちで奥へと歩を進めると、見慣れぬ巨大な塊が見えたのである。
今度はメタルキングである。パーティメンバー全員、大興奮であった。先の迷宮であれほど喜んだゴールドマンも一緒におったが、メタルキングの前ではほんの余興に過ぎぬ。
各々、メタル系用の装備に切り替えたり、元気玉を使用したりと準備を整える。さすがのメタルキングも平均レベル60以上の歴戦の冒険者達の前ではあっけないものであった。倒して手に入った経験値は元気玉なしで約4万。さすがのメタルキングである。
経験値の多いメタル系の中で、キングと呼ばれるだけはある貫禄の数値である。キングと呼ばれるモンスターは他にも、キングスライム、オークキング、ワイトキング、ライノスキング、スカラベキング、ヒッポキング、オーガキング、キングリザードなど様々いるが、そのレア度や経験値から最もキングにふさわしいのはメタルキングであろう。
正に王の中の王――キングオブキングスである。
この時点で、迷宮の主などどうでもよくなっておった。「もはや迷宮は終わったようなものであるな」と、パーティメンバーに軽口を叩きながら奥に進むと、これだけで迷宮が終わりではないぞとばかりの出来事が起こった。
ミネアである。
メタルキングを倒し、ミネアに会い、アトラスのカードまでお土産にもらってしまい、迷宮の主が誰であったかなどまったく覚えておらぬ。
その後
自らの身に幸運な出来事が起こったとき、ネガティブな人間とポジティブな人間とで、反応が二つに分かれる。
ネガティブな人間は「運を使い果たした。これからは次々と不運な出来事が起こるに違いない」と考えるであろう。
一方、ポジティブな人間は「これはよい兆候だ。このまま次々と幸運な出来事が起こるに違いない」と考えるのである。
吾輩は後者であった。
よって、吾輩は幸運が続くことを確信するため、軽い運試しをしてみようと思ったのである。
方法は簡単である。普段はしないような高額なツボ錬金をしてみるのである。吾輩が選んだのは聖騎士のヘルムにHP+7の錬金をすることであった。上級錬金である。師団長のグリーブに重さをつけたことがある程度(しかも自分が使うためにツボをまわしたのでその一回きりである)で、ほぼ初めてである。
まずは、ツボをまわすための費用を計算してみる。
ちなみにここで計算する費用・価格は、これを行った当時でのものであり、現在とは異なる事を先に断っておくのであるぞ。
まず、聖騎士のヘルム☆2を買う。これが約12万であった。
次に使用する錬金ツボである。錬金対象が約12万と高価であるため、錬金ツボも良い物を使うのである。奇跡の錬金ツボ☆1が、30回使えて4万Gであったためこれにした。使うのは2回だけであるから、2回分で2700Gとして計算するのである。
次に素材費であるが、小さなうろこや大きなうろこ、そして結晶とようせいの火種で1回約16000Gかかる。2回で32000Gになるのである。
よって、全部込みの費用は約154700G。
あくまでもこれらはこの瞬間のバザー価格であり、普段の相場を知らぬため高いのか安いのか分からぬ。しかし「下調べをせずに行うのも運試しの一環である」と考えておるため、これで良いのである。さて、完成品が幾らで売れるかも、調べておかねばなるまい。
HP+3,HP+3 | (2回とも失敗) | 30000G |
HP+3,HP+7 | (1回だけ成功) | 50000G |
HP+7,HP+7 | (2回とも成功) | 210000G |
既に装備選びの時点で運が無いように思ったのであるが、弱気になってはいけないのである。
2回とも成功すれば、約6万のプラス。大成功ならさらにボーナス数万!
それさえ分かればよいのである。「成功率が幾らである」とか「期待値が幾らである」とかは考えてはいけないのである。それをすると運試しではなく、商売になってしまうのである。
計算を終え、満を持してツボ錬金施設に向かう。当然、いつものジャム嬢の側である。「さあ、これから」という所で、みもとふめいが駆けつけてきた。運試しをすると言う話を聞きつけ「勇姿を写真におさめたい」とやって来たのである。
良い心掛けであるな。
とりあえず、そんなみもとふめいは好きにさせて吾輩は錬金を始めたのである。
運試し1回目
ルーレットの配置も良く、危なげなく成功。どうだとばかりに余裕の表情を浮かべつつ「うまく写真はとれたであるか?」という意味でみもとふめいに目配せをしてみたが、写真を撮っておる様子は全くなかった。
運試し2回目
ルーレットの配置はあまり良くない。成功ゾーンが四ケ所に散っておる。上級であるためただでさえ少ない成功ゾーンが非常に細く尖っておる。まるでバザックスの甲羅のとげである。そして結果は残念ながら失敗。
ここぞとばかりにみもとふめいは写真を撮っておった。
自らの身に不運な出来事が起こったとき、ネガティブな人間とポジティブな人間とで、反応が二つに分かれる。
ネガティブな人間は「これは悪い兆候だ。このまま次々と不運な出来事が起こるに違いない」と考えるであろう。
一方、ポジティブな人間は「不運な出来事は出尽くした。これからは次々と幸運な出来事が起こるに違いない」と考えるのである。
吾輩は後者であった。
こうして吾輩はミネアやメタルキングに出会える幸運を信じて、今日もまた魔法の迷宮に潜るのである。
信じる信じないはあなた次第。真実はいつも藪の中。
チーム「InTheBush」リーダー・アコニットの編集でお送りいたしました。[/prpsay]