この記事は小児科医の監修を受けて作られています。
楽しみにしていた遠足だったのに、そんな日に限って朝から吐いてて行かせてあげられない。可哀想……。
子どもあるあるだと思いますが、これには理由があります。他にも……
大きな病気はしたことないけど、ちょっと体調を崩したら、すぐに吐き始めるの何?
運動会の次の日に朝から吐いてて、病院に連れていったら「疲れが出たんでしょう」って言われたんだけど「疲れて吐く」って何? どういうこと?
なんてのもよく聞く話です。
アセトン血性嘔吐症で吐いているのかもしれません。
自家中毒、周期性嘔吐症なんて呼ばれ方もするこの病気。どういう病気か説明したいと思います。
子どもの嘔吐はよくある症状ですが、すぐに治療が必要な病気が隠れていることもあるので「今、吐いていてしんどそう!」というときは病院を受診してください。救急受診が必要かどうかは、下記のサイトが参考になると思います。
「今は元気だけど、うちの子よく吐くんだよね。なんか理由あるのかな?」と疑問に思っていらっしゃる保護者の方に向けて書いていますのでよろしくお願いします。
よく吐く原因がこの病気であるなら対処法があります。上手く体調をコントロールして吐く回数が少しでも減らせたら、と思います。
簡単な説明
- 人間は食べた糖分をエネルギー源にして身体を動かしている。
- 食べた糖分だけで足りなくなると、身体に蓄えてある糖分を使う。
- それも足りなくなると、脂肪をエネルギー源にする。
- 脂肪をエネルギー源にするとアセトンが出来る。
- アセトンが身体にたまると吐き気がして吐く。頭やお腹が痛くなる。
そのほかの特徴として、息がリンゴの腐ったような甘酸っぱいにおい(アセトン臭)になります。
一言でいうなら、糖分が足りなくなるのが悪いんだということです。だから、対策としては糖分不足にならないようにするということになります。
予防法
- 炭水化物(消化されると糖分になる)を多めの食事にする。脂肪分の多いものは控えめに。
- 疲れていても晩ごはんはしっかり食べてから寝る。
- 夕ごはんのあと、朝ごはんまでの時間が長い時は寝る前におにぎりを食べる。
- 特にイベントの前日・当日の夜は、寝る前におにぎりを食べておく。
- 砂糖は症状が出てから症状を和らげる効果はありますが、予防効果は長く続きません。
食が細くて沢山食べられない子は、10時のおやつ、15時のおやつ、夜食など食事回数を増やして、おにぎりなどの炭水化物を取るようにすると良いと思います。
多分、これらの説明だけだと色々納得できないところもあるかと思いますので、 Q&A 形式で捕捉したいと思います。
Q&A
どういう子に多いの?
- 体質的なものもあるの?
- 心配症な子、緊張しやすい子、痩せ型の子がなりやすいと言われています。年齢は2〜10才くらいが多いですが、それ以上の年齢でもなることはあります。
- なんでそういう子はなりやすいの?
- 心配症な子、緊張しやすい子 → 精神的なストレスで糖分が使用されるからです。
やせ型の子 → 身体に糖分の蓄えが少ないからです。
なんでこのタイミングで?
- なんで運動会や遠足の日に起こるの?
- 緊張したり、興奮したりすると糖分が使われるので、ただでさえ身体を動かして少なくなっている糖分がさらに減ってしまうからです。
- 朝方に起こりやすいのはなんで?
- 夕ごはんのあと、朝ごはんまでの時間が長いからです。
夕ごはんのあとにすぐ寝てしまえば良いですが、遅くまで起きていたり、次の日のことを考えて興奮して眠れなかったりすると、糖分がどんどん使われて無くなっていきます。寝ても糖分の消費が0になるわけではないので、寝ている間にもじりじりと減っていき、朝方に症状が出てくるというわけです。
寝る前におにぎりを食べることで糖分が足りなくなることを防げます。
- 熱が出ると大体吐いてるけどこれは?
- 風邪ひきの熱が引き金になることもよくあります。
高熱で何も食べれなくて起こることも、しんどさが精神的ストレスになって起こることもあります。
その場合、風邪ひき自体は治っていても、アセトン血性嘔吐症の症状が残っていてしばらく吐くことも珍しくないかと思います。
- 低血糖とは違うの?
- 低血糖が続いてもアセトン血性嘔吐症になります。身体が脂肪をエネルギー源に使い始めると糖分が節約できるので、低血糖になる前にアセトンがたまっていき、アセトン血性嘔吐症になって、嘔吐が始まります。
低血糖で、なおかつアセトンもたまっていればケトン性低血糖症という病名になります。病名が違ってもほぼ同じようなものと考えて大丈夫です。
予防法ってあるの?
- どうすれば防げるの?
- いつも通りの生活リズムを変えないようにしましょう。
遅くまで起きているとそれだけエネルギーを使いますし、早い時間に食べて寝てしまうと朝ごはんまでの時間が長くなって寝ている間にエネルギーが尽きてしまいます。
- 寝る前に砂糖を舐めるのはダメ?
- 砂糖は消化されてすぐにエネルギーとして使われてしまうので、すぐになくなってしまいます。一方、炭水化物はゆっくり消化されて少しずつエネルギーとして使われていきます。そのため、寝る前におにぎりを食べると朝まで予防効果が続くのです。
- どうやれば糖分の蓄えが増えるの?
- 糖分は肝臓と筋肉に蓄えられています。
普段からしっかり炭水化物を食べて肝臓の蓄えを増やすか、運動することで筋肉自体を増やすかなどすれば蓄えを増やすことが出来ます。
- 他に注意点は?
- お肉やチョコレートのような脂肪分の多い食べ物ばかり食べていると、症状が出やすくなるのでごはんやうどんのような炭水化物もしっかり食べるようにした方が良いようです。
吐き始めてしまったら。
- 気を付けていたんだけど、吐き始めちゃったらどうしたらいいの?
- まず安静が第一です。そして、可能なら経口補水液を少しずつ飲んでみて、それが大丈夫ならおかゆや煮込んだうどんのように消化が良くて、炭水化物を中心にしたものを食べさせてあげると良いと思います。
頭痛がひどい時は子ども用の痛み止めを使っても良いと思います。
- 経口補水液?
- 脱水時に塩分と糖分を補うための飲み物です。症状の出始めに糖分をとることで症状がひどくなるのをおさえられる場合もあります。時間がたてばそれだけアセトンもたまり、吐き気が強くなり余計に何も飲めなくなる可能性があるため、症状の出始めからが良いのです。
- 経口補水液って売ってるの?
- 薬局で売っている市販のもの(OS-1やアクアライト)がベストですが、なければ自分で作っても良いと思います。
湯冷まし 1L に砂糖 40g(大さじ 4 と 1/2 杯)と食塩 3g(小さじ 1/2 杯)を、混ぜてよく溶かすと出来上がります。果汁を少し混ぜると飲みやすくなります。
500ml作るなら砂糖 20g 、食塩 1.5g にしてください。
- 何その謎のレシピ……
- エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 の経口補水療法のページに載っている作り方です。このガイドラインでは、ブドウ糖 18g(大さじ2)となっていますが、ご家庭に置いてある砂糖はたいてい上白糖か三温糖だと思いますので、ここでは砂糖 40gとしています。砂糖 40gが甘すぎると感じるときは、ブドウ糖 18gにすれば甘さが少し控えられると思います。
- 作れるならOS-1とかを買う必要はない?
- 同ガイドラインには手作りの経口補水液についてこう書いてあります。
濃度が必ずしも正確ではないため、十分な量の電解質補給ができない可能性がある。したがって、あくまでも市販のORSがすぐに手に入らない場合の緊急避難的措置として用いるべき
文中の ORS は Oral Rehydration Solution の略で、経口補水液のことです。長引きそうならOS-1やアクアライトなどを買った方が良いと思います。また、市販の経口補水液には、塩分、糖分以外にも脱水のときに必要な電解質が入っています。
- なんかしょっぱいから薄めてもいい?
- 身体に吸収されやすい濃度になっていますので、薄めずに飲んでください。
- スポーツ飲料じゃダメ?
- 吐くと塩分が失われるので、糖分だけでなく塩分も必要です。ポカリスエットやアクエリアスなどのスポーツ飲料は糖分は多いのですが、塩分が少ないので良くありません。上記のスポーツ飲料に含まれる塩分は、OS-1の半分以下です。
- 飲ませてもすぐ吐くんだけど……
- 前述のガイドラインにはこう載っています。
嘔吐をしているときは、ティースプーン 1杯程度を飲ませ、5〜10分待って、それから再度与えるのが良い。:世界保健機関(WHO)
ティースプーン、注射器、スポイトを用いて、5cc程度少量ずつあげて、徐々に増やしていく。:米国疾病管理予防センター(CDC)
いくら本人が欲しがっても、吐いているときは少しずつあげた方が本人のためです。欲しがっているのに少しずつしかあげないのは可哀想に思いますが、すぐに吐いちゃうならそれはそれで可哀想ですからね。
それでも飲めない、吐いてしまうというなら病院に行って点滴をしてもらう必要があるかもしれません。
- 病院に行った方が良い?
- 場合によっては点滴をしないといけない場合があるので、水分がとれない、ぐったりしているなどあれば病院に行った方が良いと思います。
- おしっこが濃くて少なく涙も出ない
- 唇、舌、体の皮膚が乾燥している
- ずーっとぼーっとしている
- 病院に行ったら治療薬はある?
- この病気専用の特効薬はありませんが、数日点滴をして糖分、水分を補給すればよくなります。
いつか吐きにくくなる?
- いつか治る?
- 思春期を過ぎれば食べる量や筋肉量が増えて、糖分の蓄えが十分になるので起こらなくなります。
- 思春期で治るなら、大人はならないの?
- 子どもは体重当たりの糖分の必要量が多いのに加えて、糖分の蓄えが少ないので起こりやすいだけで大人でもなります。ただし、あえてなるようなことをしなければ、通常はなりません。例えば、極端な糖質制限ダイエットをすると、アセトンがたまって頭が痛くなったり、吐き気がしてきたりします。
本当にこの病気なのかなあ?
- アセトンがたまっているかどうか調べる方法はある?
- アセトンは吐いた息に混じって出てくるので、息がリンゴの腐ったような甘酸っぱいにおいになります。病院で調べてもらう場合は、血液検査か尿検査をすることになります。
- 似た病気ってあるの?
- 周期性ACTH-ADH放出症候群、糖尿病ケトアシドーシスも似たような症状が出ます。
- 周期性ACTH-ADH放出症候群って?
- 何週間かに一回、数日続けて吐く発作が起こりますが、発作がおさまると何にもなく元気になるような病気です。数年で勝手に治ります。
イベントや精神的ストレスとは全く関係なく定期的に吐くときはこっちの病気かもしれません。病院で血液検査をしてもらわないとわかりませんが、発作を抑える薬もありますので、検査をしてもらう価値はあるかと思います。
- 糖尿病ケトアシドーシスって?
- 糖尿病は、インスリンが足りないために血液中の糖分をエネルギー源として使えなくなる病気です。糖分をエネルギー源として使えないために、脂肪をエネルギー源として使いアセトンがたまってしまいます。
2型糖尿病の方や、毎日甘いジュースばかり飲んでいる方がなります。毎日甘いジュースを飲んでいると、膵臓が疲れてインスリンを出せなくなり、糖分をとっているのに、その糖分をエネルギー源として使えなくなってしまいます。
もっとわかりやすいサイトないの?
私が参考にしたサイトを載せておきます。