吾輩は今、キメラキラパン天地僧にて、聖守護者と戦う準備をしておる。

【短編小説】戦士の苦悩と地雷の事情

おにこんぼう
著者
いしきふめい
登場モンスター
おにこんぼう
登場人物

いしきふめい(戦士)@人間・男
いしきふめい
(戦士)

みもとふめい(武闘家)@人間・男
みもとふめい
(武闘家)

げいむすきお(魔法戦士)@ウェディ・男
げいむすきお
(魔法戦士)

ほいみかけよ(僧侶)@オーガ・女
ほいみかけよ
(僧侶)

いしきふめい

ふざけるなよ、この地雷僧侶が! ……と思ったんだけど、ちょっと様子がおかしいぞ。これはまさか……。苦悩する戦士と、裏のある僧侶。彼女の真意は一体どこに! どうぞ、お読みください。

戦士の苦悩と地雷の事情

 ふざけるなよ。なんだこの地雷僧侶。このタイミングでスクルト? ただでさえ詠唱に時間がかかる呪文なのに、どうしてよりにもよってこの時間的余裕のない今なんだ。
 そもそも少々守備力が上がった所で、’つうこんのいちげき’を喰らったらそれだけで死んでしまうっていうのに、そのスクルトに何の意味があるっていうんだ。
 ここで優先されるべきは’聖女の守り’だ。’聖女の守り’がかかっていて、ある程度の体力が残っていれば、どんなに重く間違いなく死んでしまうような一撃も、瀕死の状態になるとはいえ、一度は耐えることが出来るようになるんだからな。
 目の前に立って問いただしたいところだが、今は少しばかり”手が離せない”状況だった。

おにこんぼう

 ザグバン丘陵に向かう途中、サーマリ高原でおにこんぼうにからまれた。
 天をつくような数本の鋭い角。オーガ数人分を超える赤い巨体。その巨体を動かすだけの分厚い筋肉。体に見合わぬ小さな背中の羽。名前の由来になったのであろう巨大な棍棒。
 冒険者として駆け出しに毛の生えた程度の俺たちにとって、それは楽に勝てる相手ではなかった。とはいえ、おびえて逃げ出すほどの相手でもない。無視して通り過ぎることも出来たが、自分達の強さを確認するため、ちょっとした腕試しのつもりで戦うことにした。

 戦いは順調な滑り出しをみせた。僧侶のほいみかけよがすぐに回復してくれていたし、一撃で死んでしまうような大ぶりの一打はすんでのところでかわすことが出来ていた。たまに、攻撃をかわして無傷であるにも関わらず、間髪おかずにベホイミがとんできて無駄になることもあったが、俺としてはそれ位慎重な方が安心できた。

 これは楽勝だな、と思った矢先だった。そこまでの楽な戦いが僥倖に支えられたかりそめのものだと気づく。
 体力を半分とちょっと程度削ったころだ。おにこんぼうは一瞬動きを止め、かけよをまっすぐに見据えた。無論、いつまでも見据えているだけではない。肉片と血で汚れた棍棒を片手に、殺気をみなぎらせてかけよに向かって歩き始めた。
 戦いも中盤にきて初めて僧侶が狙われたのだった。
 体力の少ない彼女ではあるが、通常の一撃で死ぬことはない。しかし、もしそれがおにこんぼうの得意とする’つうこんのいちげき’だったとしたら?
 あっけなく死んでしまうことは容易に想像ができた。
 戦士の俺いしきふめいと武闘家のみもとふめいの’聖女の守り’は更新してくれているが、肝心要の彼女の方がいつの間にやら切れている。’会心ガード’が使えるほど、盾の扱いに慣れていない。そして、おにこんぼうの’つうこんのいちげき’を耐え切れるだけの体力は持ち合わせていないときている。
 俺とみもとふめいの2人で必死にその肉の塊を押し返そうとしてはみるものの──いわゆる「壁」をしようとしてはみるものの──何の重しにもならなかった。これではおにこんぼうが攻撃を諦めるだけの時間を稼ぐことは出来ないだろう。

おにこんぼうを押す二人

 もし、今、’つうこんのいちげき’を喰らったら彼女は確実に死ぬ。彼女が死ねば、回復役がいなくなる。回復役がいなくなれば、なし崩し的に全滅するだろう。
 そして、あと数秒で彼女がその射程圏内に入る。
 そんな中、後ろから聞こえてきたのがスクルトの詠唱だった。
 この絶望が分かってもらえるだろうか。

 一方で魔法戦士のげいむすきおはというと我関せずで剣を片手にバイシオンを唱え、自分自身のバイキルトの効果を更新している。
 あいつは攻撃する気満々だ。どうせ壁に入ってくれたところで布装備の魔法戦士では何の重しにもならないだろうからそれで構わないが、この状況を楽しんでいるかのようなのが少しいらつく。普段から楽な戦いよりも、無駄にギリギリの戦いを好むようなやつだからむしろこういった状況は望むところなのだろう。僧侶が死に、敵も味方もお互い回復なしのガチの殴り合いになったとしても、例え、そのまま全滅してしまうとしても、最後の最後まで戦いを楽しむのだろう。

バイキを更新するすきお

 あいつはなんのあてにもならない。
 俺の味方はみもとふめいだけだ。逆にみもとふめいからしてみれば俺だけが味方なんだ。
 そう思うと、より一層の力が全身にこもる。ブヨブヨした脂肪の奥に隠された崖のような筋肉の壁の感触が両手の平を通じて伝わってくる。
 いくら気合を入れたところで、それでどうにかなるような重さではなく、食いしばった奥歯がぎりぎりと軋むばかりで、ずるずると押されていく。

 ここで俺が使える手はそれ程多くない。
 すぐに思いつくのは’たいあたり’。おにこんぼうをひるませるか、ひるませられないまでもターゲットを変えさせるかできればいい。だが、それで反応がなければそこで終わる。この歩く速度だとかけよに辿り着くまでに出来てあと一手。不確実なものにその一手は使えない。賭けをするのは、何もしなければ負けというところまで追いつめられてからでいい。
‘チャージタックル’でも使えれば、まだ可能性も多少上がったのだろうが、残念ながらそんな気の利いた技はまだ使えなかった。
 みもとふめいもただ押されるだけで何も出来ずにいるということは、モンスターを一時的に行動不能にさせる’一喝’が使える状態にはないということなのだろう。

 他に確実な方法があるにはあるがあまり気が進まなかった。なぜなら、その方法は……と、考えている間にかけよのところまで押し込まれてしまった。
 ここからが正念場になる。普通の攻撃なら、かけよは死なずにすむ。それなら何の問題もない。しかし、もし’つうこんのいちげき’だったとしたら……。

 おにこんぼうは両手を振り上げこんぼうを大きく振りかぶった。
――これは’ つうこんのいちげき’ を放つモーションだ。

こんぼうをふりあげるおにこんぼう

 そのタイミングで、スクルトの詠唱が終わった。
 助かった。ここからでも自分自身に’ 聖女の守り’ をかけてくれればまだまにあう。

「かけよ! 聖女!」

 その声は彼女に届かなかったのか、残念ながらベホイミを唱え始める。

 地雷僧侶。地雷僧侶。地雷僧侶。地雷僧侶。

 心の中で呪詛の言葉を繰り返す。
 仕方がない。さっき考えていた確実な方法を使うしかない。気は進まないが、彼女が死んでしまうよりはいいだろう……と、いうよりここでそれをしないと、俺が地雷戦士だ。

 俺はほいみかけよを’かばう’ことにした。戦士として最も最初に身につけるスキルであり、戦士を戦士たらしめる重要なスキルだ。

こんぼうをふりおろすおにこんぼう

 ぎりぎり間に合い、彼女の前に立ちふさがる。同時におにこんぼうの重い一撃をうけ、まさに「死ぬほどの痛み」が頭のてっぺんから足の先まで突き抜ける。’聖女の守り’のおかげで死にはしないが、死ぬ以上の痛みがあるのに気を失えないというのはある意味死ぬよりタチが悪い。それが最後まで気が進まなかった理由だ。
――が、そう思ったのもつかの間、痛みはすぐに消えてなくなる。

 かけよのベホイミか。痛みは一瞬。完璧なタイミングだった。
 偶然? それとも狙って――つまり、一撃の直後に詠唱が終わるようにタイミングを見計らって、ベホイミを唱え始めた?
 例えタイミングを合わせたにしたって、なんで俺に? 彼女がベホイミを唱え始めたのは、俺が彼女をかばう動作の前だったはずだ。いや、はずだ、もなにもない。おにこんぼうが彼女に向かって腕を振り上げたにも関わらず、かけよがベホイミを唱え始めたからこそかばったんだから、その順番はゆるがない。
 詠唱を始めた後で、対象の変更は出来ない。いくら地雷僧侶だからって、自分に向かって腕を振り上げているモンスターがいる状況で、ベホイミをかける相手を間違えるだろうか。

「いしき君、ありがとう」
 すぐ後ろから彼女の声が聞こえた。腑に落ちないところはあるものの、今はそれどころじゃない。おにこんぼうを倒すことに意識を集中しないといけない。

 どうにか気持ちを切り替えて戦う。元より苦戦することはあっても、負けることはない戦いだ。その後は何事もなく、戦いに勝利した。

 これでようやく聞ける。すぐにドルボードに乗ってかけよに近寄る。「さっきなんで自分に聖女をかけずに、俺にベホイミをしたんだ」と、問い詰めようとしたら先をこされた。
「さっきはありがとう。おかげで痛い思いをせずにすんだ」
 なるほど。その言葉で理解した。こいつ、わかってやってたんだ。

 多分、こういうことだ。
 ’聖女の守り’が、かかっていようと痛いものは痛い。それが嫌で、あえて自分に聖女をかけなかった。そうすれば、俺がかばうだろう、と予測して。
 あらかじめ打ち合わせをしていたならともかく、もし俺がかばわなかったらどうするつもりだったんだろう。自分が痛い思いをしたくないばかりに、パーティを全滅のリスクの前にさらすのか。

 おそらく、みもとふめいもかけよの一言で全てを悟ったのだろう。何か言いたげな表情を浮かべている。ただ、とりあえずは戦闘には勝つことが出来たし、何といったものかという様子で言いよどんでいる。俺が言ってやるよ、というつもりでみもとふめいに視線を送り、軽く頷く。しかし、いやよは口を挟む隙を与えてはくれない。
「手間をかけさせてごめんね。でも、ちょっとでも痛くないようにと思って、スクルトをかけたんだよ」
 スクルトを唱え始めた段階で、既にそのつもりだったんだな。あの痛みは”手間をかけさせて”というレベルではなかった。

 技術的な面での地雷かと思ったら、性格的な面での地雷だったってわけだ。いずれにせよ、地雷であることには違いない。

 かけよが一呼吸おいたので、今度こそ言ってやろうと思って、かけよの目を覗き込むと、それまでニコニコしていたのに突然表情が消え真剣な顔つきになった。
 オーガのかけよの方が俺より背が高いから、普段は俺が彼女を見上げる形の方が多い。それが今は彼女が俺を見上げる形になっている。いつも戦闘が終わるとすぐにドルボードに乗り込むのに、何故かかけよは乗っておらず、俺だけが乗っているせいで視線の高さが逆転していた。
 普段見ないかけよの上目づかいに怯んでしまう。
 かけよってこんなに可愛かったっけ。

「守ってくれてありがとう。信じてた。いしき君、優しいから。絶対守ってくれるって信じてた」
 そう言ってまた笑みを浮かべる。軽い上目遣いのままで。
「別に優しいかどうかは関係ない。単にパーティが全滅をしないようにしただけだ。あくまでも戦士としての判断だ」
 違う。そんな話がしたいんじゃない。
 後衛は前衛が安心して戦えるようにサポートして欲しい。僧侶は特に回復の要なんだから、安全第一に行動し、少しでもリスクがあるようなら回避するように動いてほしい。
 しかし、心の声が外に出てこない。

戦いが終わって

「やっぱりいしき君はいつも頼りになるよね」
「戦士だからな」
「でも、痛かったでしょ?」
 痛かった。死ぬ以上に痛かった。
「気にするな。仲間を守るのが戦士の仕事だ」
 もはや自分が何を言っているのか分からなくなってしまっていた。

「はぁ? ふざけんなよ。バカじゃねぇの」というみもとふめいの声が聞こえてきたが、完全に無視した。みもとふめいを裏切ってしまった罪悪感が軽く胸をよぎる。

「やっぱり優しい。大好き」
 言葉と同時に手を伸ばしてきて、ドルボードのハンドルを握る俺の右手を両手で覆う。
 俺の心は満たされていた。ただ、最後のプライドとして嬉しい気持ちを悟られないために憮然とした表情は崩さなかった。
「なでてあげる」と言って、今度は頭に手を伸ばしてきたが「バカ。やめろ」と言って手を振り払う。ドルボードが少し揺れる。かけよが小さく「ええー。いいじゃん。少しくらい」といってふくれるのを見て、素直になでてもらえばよかったかなと思いつつ、そんなことをされたらきっとにやけてしまうのを我慢出来なかっただろうから、これでよかったんだと自分を納得させる。

「マジふざけんな。なんだこの茶番。頭わいてんだろ」と、みもとふめいが独り言――多分独り言だと思う――を呟いているが、聞こえないふりをした。どっちを見てそれを言っているのかは確認しなかった。もし、俺の方を見て言っていたらそれは独り言ではなく……。俺はしばらくみもとふめいの方を見ることが出来なかった。

 わかってる。この女にいいように使われて、抗議することが出来ないどころか地雷行為を指摘することすらできず、むしろ喜んでいる俺が一番の地雷だってことくらいは。

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