吾輩は今、キメラキラパン天地僧にて、聖守護者と戦う準備をしておる。

【ランガーオ村の王者】第3話 196.村王の決意

ランガーオ村の王者
196.村王の決意
  • 受注条件ランガーオ村の王者 第2話をクリアしている
  • 場所ランガーオ村(オーグリード大陸)
  • 依頼主ギュラン

げいむすきお

急に終活らしきことを始めた村王。それを心配するギュランに村王の様子を探ってほしいと頼まれた。詳細を知りたい者のみ読み進めるとよいのである。

ランガーオ村の王者 第3話 村王の決意

 頃合いを見てランガーオの村を訪れた。そろそろ何か起こるころではないかという予感を感じてのことである。
 
「おお、げいむすきおか。よく来てくれたな」
 
 いつものようにノックもせずに村王の部屋に入ると、いつものようにギュランが出迎えてくれた。
 
「村王に用だったか? 残念だが村王はこのところ不在がちでな。また、来てもらえるか」
 
 そういってギュランは背を向けた。村王はいないようだ。
 主のおらぬ玉座をぼんやりと眺める。今は単なるただの岩以外のなにものでもない。それでも何の疑いもなく立派な玉座であると思わされておったのは、そこに座っていた村王の威厳のなせる業であろう。

 しかし、村王はよくこんな固そうな岩に長時間座っていられるであるな。一応申し訳程度に何かしらの獣の毛皮は敷いてはあるであるが、あまりクッション性にすぐれているようにもみえぬ。

 ギュランが背を向けているのをいいことに、鞘に入ったままの両手剣で軽く叩いてみる。金属がぶつかり合うような高い音がした。かなり固い岩のようである。次は少し力を込めてみたが、金属音が大きくなるだけのことだった。
 
「いや……。ちょっと待ってくれるか」
 
 ギュランが唐突に振り返った。怒られるのかと思い、とっさに剣を引っ込める。
 
「じつは村王が不在がちなことについて相談があるのだ……」
 
 どうやら別の話のようである。
 
「げいむすきおが雪山から村王を救出してくれた日からどうも村王は様子がおかしくてな。先日の儀式のように、子供たちに何かを教えたり、自分の役目を、人に引き継いだり次々に身の回りを整理を、始めていてな……」
 
 言いたいことは何となくわかる。確かに吾輩も儀式の際には似たような印象を受けた。ただ『雪山から村王を救出した日』からというよりは『誰かから届いた手紙を読んだ時』からではないか、と思う。

「最初はトシを気にされてのことかと、見守っていたが、最近はそれも少々行き過ぎではないかと感じるほどなのだ」
 
 そういいながら空の玉座に目を向ける。岩が欠けていないか確認されたのかと思ったが、そういうわけでもなくただ視線がそちらに向いただけのようである。

岩の玉座を見る

「まるで……村王はこの村を出ていこうとでもしているのではないかと思うほどに……。思い過ごしであればよいのだが、げいむすきおには村王が村を不在にして何をしているのかを調べてほしいのだ。それさえわかれば私も安心できる。もちろん、村王には内密の上でだが、やってもらえるだろうか?」
 
 快く引き受けた。断る理由もない。吾輩も気にはなっておったであるしな。
 
「おおっ、本当か! 恩に着るぞ! そういうことならまずは村人たちから目撃情報を集めるのがよいだろう。村王はどこにいても目立つからな。それでは、よろしく頼んだぞ!」
 
 村王が何をしているのか調べた結果、村を出ていくつもりであった場合はどうする気だろう。覚悟は出来ているのだろうか。もし、危惧している通りのことを村王が考えていたとしたら、きっとギュランの言葉は届かない。ギュランの言葉で説得されるくらいであれば、説得されないためにこっそりと準備をすすめるだろう。隠さない様子が、村王の固い意志を表しているように思えた。
 玉座のイメージがそのまま村王に重なる。いくらギュランが説得の言葉をぶつけたところで、金属音がするばかりで少しも欠けることはないのではなかろうか。

 まあ、良い。今考えても仕方のないことだ。ただの思い過ごしであるかもしれぬわけであるしな。一旦、考えるのをやめて体を動かすことにする。
 
 村人たちから目撃情報を集めるといってもどこから手を付けて良いのかわからぬ。適当に目についたオーガに聞いてまわることにする。
 村中を歩き回ったにも関わらず、結局、手掛かりはすぐ近くにあった。村王の家のすぐ隣に住むジェラルが知っておったのである。

「村王が村を出ていこうとしているかもしれないって? 何をバカなことを……。村王がランガーオ村を出ていくなんてありえないよ。村王にはこの村を離れるわけにゃいかない理由があるからね。あっと……。クチがすべったね。その理由を聞きたいっていうんだろ?」
 
 いかにも言いたそうな様子が見て取れたため、反射的に聞きたくないと答えてしまった。
 
「ああ、そうかい。だったら、今の話は忘れておくれ。軽々しく人に話すようなことじゃないんだよ」
 
 静かになった。静寂の中、一瞬視線が交差する。

「やっぱり、村王がこの村を離れられない理由を聞きたいのかい?」

やっぱり聞きたいのかい

 目があっただけで聞きたいことにされてしまった。吾輩の目的はあくまでも村王の行方だ。何か事情があるのであれば、村王から直接聞きたい。
 ……とはいえ、話に付き合わないことには村王の行方を教えてくれそうにない。仕方なく聞きたいと答える。
 
「やれやれ仕方ないね……。じゃあ、すこしだけ教えてやるよ。この村のちょっと古い人間ならだれでも知ってることさ。村王はある人が村に帰ってくるのを待ってるのさ。ある人ってのは誰かって? うーん。それはあたしのクチから言いたくないね。それを知りたきゃ、村王から直接聞くんだね。村王の居場所なら、武器屋の横の階段の先に住むコッシャばあさんが知ってるだろうさ」
 
 なかなか面倒なやつであるな。面倒なやつではあるが、なりゆき上、一応の礼はいって、今度はコッシャばあさんとやらを訪ねることとする。
 ジェラル殿の言う通りに武器屋の横の階段を上ると一軒の家があった。おそらくここがコッシャばあさんの家であろう。
 
「さっき村の外に出ていく村王を見かけたが、悩みがすぐに顔に出るのは子供の頃からちっとも変わっとらんなあ」
 
 中に入るとお婆さんが何かぶつぶつといいいながら、料理を作っていた。岩の意思を持つ村王であるが、婆さん連中の目には、子供の頃の面影が今も見えているようである。
 
「ん? 村王の居場所をわしが知ってるとジェラルから聞いたじゃと? やれやれ。あやつもクチが軽いのう。まあよい。教えてやろう。村王ならランガーオ山地の洞くつにおる。南東にあるダズの岩穴と呼ばれる洞くつじゃ。なぜそんな所にいるかは行けばわかる。自分の目で確かめるがよかろう」

コッシャばあさん

 ダズの岩穴? 一体そこに何があるのであろうか。ウェディであれば、かつての恋人の墓でもありそうな話であるが……。

 吾輩は一路ダズの岩穴を目指す。意外と遠い。ランガーオ村よりもむしろ獅子門からの方が近いくらいのところにそれはあった。村王はいつもの軽装でこの雪山の中を行ったのであろう。

 村王はどこであろうか。ダズの岩穴の中、隅々までドルボードを走らせる。
 きょろきょろと探しながら走り回ったが、結局村王がいたのは一番奥の大空洞であった。
 なにやら墓らしきものに向かって話しかけている。

「私もずいぶんトシをとりました。……なにしろあれから20年です。あなたの血を引く息子が極限まできたえあげて……わしを殺しにきます。きっと、想像を絶する強さでしょうな。わしは逃げも隠れもしません。今持っているすべてのチカラでただ受けて立つのみです……。」
 
 ギュランの心配は思い過ごしではなさそうである。
 声をかけるかかけまいか迷っているうちに、村王は吾輩に気付いた。
 
「おお、げいむすきお……か? こんな所でいったい何を……」

 一人で合点がいったのか、何かを悟ったのか吾輩の返事は待たなかった。
 
「……なるほど。おおかたギュランのやつが探させたのだろう。まったくあいつは心配性だな。ギュランは子供の頃から身体が弱かった。だが、生来の負けず嫌いでな。身体が弱い分、とにかく熱心に勉強した。そのかいあって、今ではオーガの中では飛び抜けてアタマがいい。わしはあいつのそんなところを気に入って側近にした」

 墓の方に向き直る。そこには墓の主の物と思われる剣が立てかけてあった。

「しかし……ギュランに心配をかけたのは無理もなかったか……。」
 
 村王はようやく覚悟を決めたらしく、込み入った事情を話し始めた。

「げいむすきおよ。この墓はな、わしが若い頃互いに切磋琢磨した兄貴分の墓なのだ。名をガガベスといった。わしなどよりもはるかに強く、史上最強のチャンピオンと呼ばれた村の英雄だった。わしは何度挑んすでもまったくガガベスに歯が立たなかった。だがある日の試合でのことだ……。わしの拳が吸い込まれるようにガガベスのみぞおちに入ってしまった……。それはただの幸運な一撃に過ぎなかった。だがガガベスはその一撃によってそのまま武闘場の上でこの世をさったのだ」
 
 どこかで聞いたことがあるような話であるな。吾輩のこのウェディの身体の持ち主も、お互いに切磋琢磨していたライバルの一撃で死んだ。
 もし吾輩が生き返しの術を受けることが無く、この身体が普通に死んでいっていたとしたら、殺した方の彼はどうしていたであろう。
 
「あまりのことにわしは唖然としていたが、新たなチャンピオンの誕生に村の人々は沸き返った。当時のランガーオ村はなによりも勝つことこそが尊ばれた時代だったのだ。そして敗者には残酷な仕打ちが与えられた。英雄だったガガベスの地位は死によって一瞬にして地に堕ちた。ガガベスには奥さんと息子がいたが、それ以来弱きものの家族としてしいたげられ、ひどく貧しい生活を強いられたと聞く……。苦労がたたってか奥さんは数年後になくなり、息子がひとり残された。その息子の名はガガイ……。当時まだ6才だったガガイはある日わしの前に来てこう言った」
 
 その時のガガイの言葉を村王は静かに、淡々と語った。
 
「いつか必ずお前を殺す。そのためにどんなことでもする……とな」

殺す

 たった6才の子供の言葉とは思えぬ程の、怒りと決意の込められた言葉である。しかし、村王の語り口には何の感情もこもってはいなかった。この20年間で、何度もその言葉を心の中で反芻し、完全に受け入れてしまったのだろう。
 
「……今から20年前のことだ。ガガイはそのまま村を出ていき、ずっと生きているかどうかさえわからなかった。そしてお前に助けてもらったあの日……そのガガイから手紙が来たのだ。手紙にはただ一言こう書いてあった。お前を殺しにいく……とな」
 
 ようやくあの手紙の謎が解けた。そういうことだったのである。
 小さな子供に過ぎなかったガガイが20年の歳月を経て復讐を果たさんがため帰ってくる。
 
 これは完全にいつものアレである。
 
『ガガイはその強い復讐心のために、どこかになにかしらで封印され本来の力を失っている魔物に魅入られ、なんらかの闇の取引をして、なんとかの力を手に入れて強くなり、戦いになると優勢なうちは正気だが、劣勢になった途端、魔物に体を乗っ取られ、一回りか二回りかほど身体が大きくなるものの前後不覚になって、誰彼構わず襲いかかってくるようになる』的なヤツである。
 
「わしは老いたが逃げも隠れもせん。むしろこちらからガガイの所に出向いていこうと思っているのだ。勝つことは難しいだろう……。だがわしは持てるチカラのすべてをかけてやつとの勝負に臨まねばならん。いらぬ心配はかけたくない。このことはギュランや村の連中にはどうかだまっていてくれ」
 
 吾輩は静かに一度、首を縦に振る。
 
「これがわしの最後の戦いだ」

最後の戦いだ

 吾輩に言っているのか、自分自身に言い聞かせているのかわからぬが、『最後の戦い』と、はっきり言い切ったのは聞こえた。
 
「すっかり長話になってしまったな。さあ、村へ帰ろう。ギュランにはわしの方からうまいこと言っておく。とにかくここでのことはだまっていてくれ。これはわしとお前の約束だ。よいな? ガハハ!」
 
 村王は言いたいことだけ言うと、さっさと村に帰ってしまった。
 一方的であるな。
 仕方がない。吾輩も村に帰ることにする。

 村に戻ると、いつも通りの光景だった。

「おお、げいむすきお。戻ったか。」

戻ったか

「ギュランにはうまいこと言っておいた。しつこいようだが、洞くつで話したことは誰にもいってはならんぞ。ガハハハハ!」
 
『うまいこと言っておいた』とは言っておるが、どうせギュランにも一方的に言いたいことだけをいって質問を許さなかったのだろう。一体、何と言ったのか。
 今回の依頼人はギュランであるため、報告しなければならない。村王との約束もあるため、詳細はあやふやにしておきたいが、嘘の報告もしたくない。本当にうまいこと言っておいてくれておるならよいが。
 
 どうしたものかと思案するも、村王が何と言って、ギュランがどの程度納得しておるのかもわからぬのでは対策のたてようもない。出たとこ勝負でいくしかない。

 思い切ってギュランに声をかけた。
 
「村王から聞いたのが、野山に草木の観察に行っていたところげいむすきおに会って戻ってきたと? どうも釈然としない話だが、本人が言うのだから仕方あるまい……。とにかく礼をしよう。これを受け取ってくれ」
 
 やっぱり何もうまいこと言えておらぬではないか! 予想通りというかなんというか、ギュランは全く納得しておらぬ様子である。ただ、納得はしていなくても『仕方ない』と諦めてくれておるのは幸いであった。
 おそらく村王はいつもこんな調子で、『こんな時に何を言っても無駄』ということを一番よく知っておるのが側近のギュランなのであろう。
 
 これでギュランの依頼を形の上では果たしたことになるが、まだ一件落着というわけにはいかない。村王の様子からは、吾輩がガガイを代わりに倒して「はい、おしまい」というわけにはいかぬであろうことは予想がつく。どうしたものか。

 村王が死んだところで、なにか困ったことがあるかというと別にないのであるが、ここまで事情を知ってしまうと見て見ぬふりもしにくい。
 
 とりあえずは、村王の動きを待つしかないであるな。

ランガーオ村の王者

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