【PC】ウェディの娘チグサ

フレンドになった

 あることをきっかけとし、吾輩はツボ錬金装備が欲しくてたまらなくなった。

マスター・ポーリア【NPC】ツボ錬金職人達

 そのため、装備が手に入れるまで、吾輩の生活はツボ錬金一色となっていた。早くマスターからもらいたいがため、日がな一日をツボ錬金に捧げたのである。

 これはそんな頃の話である。

 吾輩はツボ錬金をするときはいつもガートラント城下町と決めておった。
 と、いうのも、今でこそバザーは世界各地、どこでも同じものが並んでおるが、当時は大陸ごとにわかれており、ウェナ大陸で出品されたものはウェナ大陸でしか買えぬし、エルトナ大陸で出品されたものはエルトナ大陸でしか買えぬというシステムであった。各大陸特色はあったのであるが、最も利用者数の多いバザーはオーグリード大陸であったため、素材を仕入れたり、完成品を売ったりするのに、オーグリード大陸が一番都合が良かったのである。

 ならば、グレン城下町でもよいのではないか、と思う者もおるかもしれぬ。だが、グレン城下町にはそもそもツボ錬金設備がない。結果として、ガートラント城下町以外に選択肢はなかったのである。

 元々はそういった理由で居たにすぎぬ町だったが、長くいるとそれだけで情がわく。時間とともに薄れていくエテーネの村の記憶とは反比例し、ガーラント城下町への思いは深まっていく。無論、郷愁の念は特別であり、冥王ネルゲルを討たねばならぬという決意が変わらぬままであることは言うまでもない。

 グレン城下町ほど、人でごみごみしていない所もよかった。ツボ錬金設備と、素材屋、バザー、郵便局などの施設がほどよく近いのもよい。それに加えてこの町の錬金設備には、彼女がいるのである。

 お馴染みジャム嬢である。いつも、ツボ錬金設備のそばで、職人たちの所作を見守ってくれておる。そして、ツボ錬金作業着が非常によく似合っておる。じっと見ていると、いやがおうにもルークの言葉が頭に浮かぶ。

「着てみたらもう すばらしい着心地! 抜群のフィット感! もう この作業着ナシなんて 考えられない!」

 職人装備は「取引不可」であるため、マスターから直接もらったものでなくては装備することができぬ。一体どんな着心地なのであろうか。

 せめて、手ざわりだけでも──。

 吾輩は何かに操られるように、吸い込まれるように彼女の方に手を──。その時である。

触り心地

「なんか別のことしてる!」

 すぐ後ろから奇声が発せられた。その声でどこかに飛びかけていた吾輩の意識が、強制的に身体の中に押し戻される。
 振り向くと、ウェディの娘が立っておった。司祭のぼうし、司祭のほうい、司祭のてぶくろ、司祭のブーツと司祭シリーズでそろえたその姿は、(当時にしては)かなり高位の僧侶であることが見て取れた。実はこの司祭シリーズも気になる装備の一つである。司祭のほういは、前掛けがあるため正面からみるとわからないが、横から見ると身体のラインがはっきりとわかるデザインになっている。スタイルがよく分かる装備なだけに、ジャム嬢を見た後にこのウェディの娘をみると、見劣りすると言わざるを得ないのであるがこの際関係ない。身体つきはともかくとして、顔は見た顔であった。確か名前はチグサとか言ったであろうか。ここでツボ錬金をしておる姿を何度か見かけたことがある。本当に「見かけたことがある」程度の関係で、挨拶を交わしたこともなかったのだが──。

「錬金してるのかと思ったら、なんか別のことをしてる!」

『なんか別のこと』とは面白い表現をする娘である。確かに第三者からすれば『何か別のこと』としか言い様の無いことをしておったかも知れぬ。

「気にする必要はない」

 実際のところ、誰かに気にされるような事をしておるつもりはないのである。

「吾輩はただ──作業着の生地を確認しようとしておるだけである」
「そうだと思った!」

 嬉しそうにそう答えてはくれたが、本当にそう思っておるのだろうか? 吾輩の言葉に納得したのかしないのか、ゆらゆらと身体を揺らしながら興味深げにじっと吾輩を見ておる。「気にする必要はないのであるぞ」と念を押して、ツボ錬金作業着の方ヘと向き直った。

後ろから突然

 向き直ったものの、後ろから強い視線を感じ落ち着かぬ。何か言おうと再度振り返ったが「何処かへ行け」とも言えず、どう言ったものかと思案しておったら、先をこされた。

「背景」

 チグサ殿はそれだけ言って、真顔で黙り込んだ。想像するに「ただの背景だから気にするな」という事であろう。邪魔をするつもりは無いようであるし、彼女の希望通り、ただの背景だと思うことにした。

 みたびジャム嬢と向かいあい、作業着を眺める。作業着の魅力にあてられ、吾輩の意識は朦朧としてくる。それまであった濃厚なチグサ殿の気配は背景と同化していき、もはや台の上に乗っている錬金ツボと同じレベルまで薄まった。
 それどころか作業着を着ているジャム嬢すらも、意識の外へと追い出され見えなくなってしまった。もはやここには吾輩と作業着が宙に浮かぶばかりである。そうなると、吾輩の欲望を抑えるものは何もなくなる。作業着に自然と手が伸びた。最初は生地の感触を確かめるために、手のひら全体でゆっくり触れる。人生の大半を剣とともにすごし、何度もマメをつぶした吾輩の硬い手のひらでも優しく包み込みこまれ、ひっかかることなくその表面をなめらかにすべる。そこから徐々に指先に力を込めていき握りこんでいく。
 一見、ごつごつとして硬いばかりのように見えるが、決してそんなことはなかった。適度な弾力と、圧をわきに逃すしなやかさも持っている。

生地の触り心地

 思わず声が漏れた。

「やわらかくて弾力がある──なんて……なんてやわらかくて弾力がある──生地だ」
「どうみても調べているのは生地じゃないよ!!」

 後ろの錬金ツボが騒がしい声を出しておったが、もはや気にならない。手で触るだけでは物足りなくなってきた。きっと皮膚の柔らかい所で触れればもっと心地よいに違いない。もっと皮膚が柔らかく、敏感なところで──。

顔を埋める

 吾輩は作業着に顔をうずめた。

「これは中々良いものである」
「わざとでしょ!」

顔を埋める後ろで

 また、後ろで錬金ツボが大騒ぎしておる。吾輩は作業着の肌触りを十分に堪能したあと、ゆっくりと振り返り余裕たっぷりに答えた。

「何がわざとなのかわからぬが、最初に言った通り、吾輩は作業着の生地の具合を確かめておるだけである」

 そして、いかに作業着を愛してやまないかを語って聞かせた。結局、この場では吾輩の作業着への思いは理解できなかったようであるが、フレンドになったためいくらでも話をする機会はあるであろう。それと、いつかパーティを組み、モンスターを倒しに行こうという約束もした。旅芸人の腕を上げたいので、それに付き合って欲しいとのことである。

フレンドになった

 旅芸人の腕を上げたいという事は、この装備でくるわけではないのだなと思いながらチグサ殿を見ていると、唐突に司祭のほういの生地の手触りも確かめたくなった。吾輩の眼は司祭のほういに記された教会のマークにくぎ付けとなる。

一体どんな手触りが──。

 ところがである。吾輩が手を伸ばすまでもなく、一歩前に足を踏み出すため、右足の筋肉を収縮させるかさせないかのその瞬間に、彼女は何を感じ取ったのか「近い近い!」と叫びながら、逃げるようにどこかへ走り去っていってしまった。

 勘のいい──。

 それにしても、最後まで騒がしい娘であった。ころころと表情が良く変わり面白くもあったがな。
 彼女の去ったツボ錬金設備の前で、吾輩はまた日常へと帰っていった。

 後日──
 いつものように作業着を眺めておると、またチグサ殿が通りがかった。

後日

「また! 飽きないな! もう!」

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4 COMMENTS

げいむすきお げいむすきお

次は家を買って引きこもりになろうかと思っておる。
チャット自体は好きなのであるが、
基本的に吾輩のしゃべり方は文字数がかかるうえに、
元々長文派なので、ドラクエ10はチャットがしにくいのである。
結果、こっちからしゃべる必要のないNPCとばかり絡むことになるのである。

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アバター おとわ

おもしろいですね(ノ∀`*)
爆笑させていただきましたwww
こーゆーの大好きです♪*
特にキャラ構成が…w

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げいむすきお げいむすきお

うむ。吾輩もこーゆーのが大好きであるぞ。
チグサ殿が話しかけてきたタイミングは神がかっておった。
本当にこれまでは全くの見ず知らずであったからな。
この後、実際に約束通りに何度か狩りにも出かけた。
なかなか面白く、好きな人物の一人なのではあるが、
いつも忙しく狩りをしておるため、頻繁には誘えず残念である。
ジャム嬢は存在感があるため、絡みやすい。
好きなNPCはルナナ様なのであるが、
気安く会う事はかなわずこれも残念である。

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